天津の夜、妖しい裏通りで酒を呑む。
コロナ引き籠り。杭州絵画留学の日々を懐かしむ妄想日記の続きである。
天津で飯を食ったあと、カラオケも行って、さて、まだちょい飲みたいけど、どっかないか?
という話。
さて、「狗不理飯店」で飯を食ったら腹一杯、満足した。
ただし、あまりの美味しさにというよりは腹一杯食い過ぎたということらしい。
体が重い。
カラオケにでも行って発散しよう。この頃はまだそんな元気があったらしい。
知らん土地で、あんまり期待を膨らませてカラオケなんぞに行くと、時として大変な目に遭うことがあるって聞いたことがある。カラオケというてもサービスは様々、爺さんはおとなく歌ってるだけが良い。
そんなこんなで結構深夜近くなってきた。
この頃は、もうちょっと飲みたいなあ。
そんな事も言えるくらい、ちょいと元気があった。
らしい。
幸い、ホテルへは歩いて帰れる距離でうろついている。
さて、どっか軽く飲めるところはないやろか?
探しながら歩く。
海外で戸惑うのは、深夜に街に出ても、日本みたいに居酒屋がない事だ。
大抵の食堂、食いもん屋はもう閉まってる。第一、居酒屋という概念がない。酒を飲ませて、つまみもあるよというのは日本的な考えみたい。西洋人が沢山来るような街やったら、酒把と言うて、いわゆるバーがある。オープンテラスで椅子があって、そこで、ビールを瓶ごとラッパ飲みするようなところだ。
わしらみたいな居酒屋飲みの癖がついた爺さんたちには馴染めない。
ここでも、たまにあってもおもろなさそうな感じなんでパスしながら歩く。
もうあかんかなあ、とか思いつつ、ある路地裏を通ってた。
まだ明かりがついてる店がいくつかあって、表で椅子を置いてみなさんたむろしてる。
涼んでるんか、飯食ってるんか、ただしゃべってるんかようわからん。
店も営業してるんかどうかようわからん。けど入り辛い。
どんなもんやろ? そばを歩いていくと、表におったおばちゃんが、「何か、食うかい?」と声を掛けてくる。
「ええのん、やってんのん」と聞くと、「大丈夫」と言う。
ほんまに大丈夫かどうかはわからんけど、綺麗なお姉ちゃんがいて、怖いお兄さんが裏にいてるというようなややこしいとこではなさそう。ただの深夜営業のご飯屋さんだ。
ただ、小汚さは只事ではないんで、これをがまんするかどうか。
で、「お腹はいっぱいなんで、ビールだけでもいいっ?」って聞いたら、ニッコリ笑って、「大丈夫」。
わしらも、「大丈夫?」。
まあ、ビールだけやったらええやろ。
入ってすぐに、「冷たいビールあるか?」って確かめる。
これ、とても大事。中国ではビールは冷やさないのがデフォルトなのだ。冷たいものは体に悪いというのは基本らしい。
これも、「大丈夫」。
中は相当に小汚い。
食いもんは頼まんほうがええかもしれん。
横では、ジャラジャラと麻雀をしてはる。
見ててもええかって聞いたら、ジャラジャラしながら「ええよっ」って。
けど、どうも賭けてるみたいやけど、ええんやろか?
かなり真剣やで。
けっこう静かに盛り上がってる。
そのせいか、わしらのことはほぼほったらかしで、話しかけてくることもないのが、わしらも気楽に飲めてありがたい。
中国の人は、トランプとか麻雀が大好きだ。
とかく集まって、ジャラジャラやってる。
普通の家で朝までやられたらかなわんやろけど、お店やったら気楽なんかもしれん。
楽しんで下され。