小林秀雄のエッセイにこんなのがあると言う。
・・・・成る程、こんな堂々たるまんじゅう屋を嘗て見た事はない。土塀をめぐらし
た一郭に、大寺の庫裏めいた建物がいくつもあり、それがみな蒸しまんじゅうの湯気
を立てている。大広間は、雑然とならべられた大小のテーブル、その上に堆高く重ね
られたまんじゅうの丸い蒸籠、これを取囲んでパクつく人間ども、まんじゅうの温気
と人いきれ、声高い談笑、ボーイ達のかけ声、楊州の一日はまんじゅう屋から始まる
と言った景気である。
・・・・・
こんなの読んだら絶対食べに行きたくなる。
しかもその揚州に来ているのだ。前にもこのブログで紹介した、南條竹則と言う人の
「中華美味紀行」という本で、上の文章が紹介されていたのだ。それは揚州に
「富春茶社」という包子、小吃の店があると言うのを紹介する文章だった。
老師に、「「富春茶社」って知ってますか」と聞くと、「知ってるよ、昔から有名な
小吃の店や」と言う。
「行きたいか?」というので、「是非行きたい」というと、「じゃあ明日の朝行こう」
と言う事になった。その明日が今日なのだ。
昨日食べた、百年老店を右に見ながら更に路地を奥に進むと、「あった」
ここの百年老店だ。
朝早いというのに人、人、人で沸き立っている。一階の大広間は既に満員で入れず、
2階に行けという。階段を上りつつ横目で見ると、服務員が山のように積み上げた蒸籠
からまんじゅうを取り出して、ビニール袋に包んでいる。
「御持ち帰りかなあ」
小林秀雄のおすすめは、蟹まんじゅう、すなわち「蟹黄包子」だ。単品はなくて、セット
メニューになっているようだ。蟹黄包子を含んだそれなりのセットを頼む。
「今から蒸すから20分ほどかかるよ」
まあ、しょうがない。
2回もどんどん人が上がってくる。蒸籠もつぎつぎやってくる。たちあがる湯気が
旨そうだ。
「さあ来た」と思うと、隣に行く、「こんどこそ」と箸を持つと、また奥の方だ。
なかなか順番が来ない。食べたらホテルに帰って、チェックアウトして駅まで急がない
といけない。
「やっと来た」
まだ食わぬ美味のふくれあがった空想と期待が一番うまかった。
実態はまあまあ、悪くはない。
味のよい包子だ。熱々だし、皮がおいしい。
江蘇省食の旅-12、小林秀雄の蟹まんじゅう
- 2010年8月20日
- 浙江蘇、安徽他/黄山、古鎮、墨硯紙筆
- 古鎮の旅
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