食いすぎでお腹がドボドボになりながら部屋に倒れこんで窓の外を見ると、日
が暮れ切ろうとしてる湾内が見えた。
あの奇岩は見えないけど。回りきったこちら側の入江の景色なのだ。
島と断崖が影を落とし、波静かに寂寥が迫る。
わしらは蟹のゲップと酒の酔いで朦朧の中を漂っている。
そろそろ寝るとしよう。
チッチッチッと鳴く鳥の声で目が覚めた。ピュピュピューとかピピピピピルー
とか聞こえる声もある。
どの声がどんなお姿なんか知らんのは残念やけど、綺麗な声の持ち主が美人や
とは限らへんのは人間の世界も同じだ。そろそろ夜が明けたんかなって思うけ
ど酒がまだ体に残っていて動きが鈍い。そろそろ歩いてカーテンの間から外を
覗いてみる。
「おいおい寝てる場合とちゃうで」って思わず友だちに声をかけた。
えらい絶景が見えるやんか。
正面の山陰から太陽が出てくるのだとわかる。
ぼんやりとした茜色のある一点のあたりが段々と濃くなっていく。あそこあた
りだ。
崖は逆光で真っ黒に近いシルエットになって稜線がくっきりと際立っている。
その下にはまだ夜の海がある。
火を灯した一隻の烏賊釣り船が滑るように動いていく。
この景色、覚えておいて何時か絵に描こう。
そやけど夜の景色を水墨で描くのはえらい難しい。
真っ暗な中に墨でその存在を描かんとあかん。それに灯火もある。
どんな工夫が要るのんか検討もつかへん。
けどやっぱり描いてみたい。
いつまで見てても飽きへん景色やけど。今日は出発が早い。ちゃっちゃと
朝ごはん食べて宮古の駅に行かんとあかんのだ。
朝ごはんも豪華なバイキング。でもゆっくり食べてる時間がない。それに
蟹のゲップがまだ残ってる。
それでも、食えるだけは食っておこう。食いもんの賤しさには限りがない。
朝の三陸鉄道に合わせてバスがあったらええんやけど、そんな風に都合良くな
ってない。仕方ないんで、又、タクシーを呼んでもらう。こんどは、従業員ご
一同さんのお見送りで出発だ。
わしらはには似合わへんなあ。おしりが浮き足立って定まらへん。
やっぱり交通の便利なとこに泊まらんとあかんと思った。
車窓の景色も復興は道半ばだ。
ブログランキングに参加しています。もしよかったらポチンとお願い致します。
にほんブログ村
ありがとうございました。