蘇州郊外の老舗、石家飯店へ
手元に、蘇州の作家、陸文夫と言う人が書いた、「美食家」という本がある。
呉越の時代、宋の時代、明清の時代、ずっと文化の爛熟の地であった江蘇の地
の美味しい物の食べ方はどうやとか食通はどこにどうこだわるかといったことを
文化大革命前のある食通の暮らしぶりを通して描き、そして文革で贅沢として
否定してしまった食へのこだわりがやはり大事な文化であったことを書いた楽しい
本があるが、その冒頭のあたりに、
・・その蘇州の食通一日はまず朝起きたら一番に、「朱鴻興」に「頭湯麺」を食べに
車を走らせなければならないとある。麺湯が濁る前の一番の麺を食べなければならないし
それも、ゆで方がどうだ、汁がどうだ、油はどうだ、具はどうだ、麺一杯で驚くほどの
指示が飛び交うのだそうだ。その後は、茶楼に上って、茶を飲み、点心を食べながら
昨日の反省とこれからの計画を建てる。もちろん何を食べるかということだ。
その時、近場の料亭に飽きたら、ちょっと足を延ばして木瀆に行って、「石家飯店」
で飯を食うかと言うような展開になっていくのだそうだ。・・・
「「石家飯店」というところに飯を食いに行こう」
「あそこは蒋介石の奥さんもよく食べに来たと言う有名な店なんや」と老師が言う。
「もしや本で読んだあそこか?」と期待が踊る。「そこ聞いたことありますよ」
「ぜひお願いします」
老師の友達は仕事に行ってしまっているので、その妹さんの案内で、「石家飯店」へ
様子がおかしい。「満員で席がない」のだそうだ。予約してないんかいな。
妹さんが電話をしている。「老街の旧店なら席があると言っている」と言う。
「そっちの方がいいです。そちらにいきましょう」
大通りから老街の入り口で車を降りる。人が沸いている。
いきなり果物や木の実の露店がびっしりだ。「おいしいそう」だ。
「あの胡桃、帰りに絶対買おう」
そこから50メートルほど、人をかきわけて歩いて行くと、「老字号」の看板がある。
一応政府認定の老舗の看板だ。