「ガシャ、ガシャ」、扉が開かない。家の中には人の気配がする。
「すみません」と言ってみたら。扉を開けてくれた。
「かね一さんですよね」、「うん」
「山椒を買いにきたんですけど」、「???」
「どれくらい要るの?」、「家でつかうんでちょっとだけです」
複雑な顔をしている。もしや、「卸だけなんですか?」
「そうですよ」、「それは残念です」、「テレビでやってたんで
それ見て来たんです」といいつつ帰ろうとした。
「粉か?粒か」、「粒がいいんです」
「ちょっとでええんか?」、「はい」というと、
「まあ入れや」と言う。中は大正時代頃の商店のような感じだ。
店のガラスケースの上に、文化庁の「登録有形文化財」の標識がおいたあった。
昔からの海南市から野上町にかけて栄えた棕櫚の問屋さんなんだろう。
つい先だって、海南の実家に木を切りに帰った。
小さな庭にあった木が伸び過ぎて隣の家からクレームがきたのだ。
汗をかきかき木を切り落として、クリーンセンターまで持って行った時、
「確か、この先のほうに山椒の店があるってテレビでやってたなあ」という
かすかな記憶で探しにいったのだ。
想像とはえらい違いだ。
「これでいいか」、「まあ、これくらいならさしあげるよ」と
いただいてしまった。
この山椒、「ぶどう山椒」というそうだが、素晴らしい香りがする。
ちょっと鼻を近づけただけで、さわやかな芳香が立ち上がるのだ。
「どうやって料理しよう」
今から楽しみだ。香りはすばらしいが、しびれはどうだろう。
後でしらべたらネットで通販をしているようだ。
味を試したら、粉も買ってみたいものだ。
故郷にも好いモノがあったのだ。
「かね一」
山本勝之助商店 (通称 かねいち商店)
和歌山県海南市阪井679