手元に陳丹燕と言う人が書いた、「上海メモラビリア」というエッセイがある。
それにもう一冊、「上海的風花雪月」というこの本の原書もある。
この本は、上海の上海的なノスタルジックな場所とそれにまつわる因縁話やそこから
湧きおこる様々な思いを美しい文章で綴った本だ。
原書の方はすらすら読めるわけではないが、中国語の美しさが感じられるのと
日本語版にはない写真があって、まるでその場にいるかのように思えたり、
こんど上海に行った時には必ず訪ねて見ようという気にさせらるのだ。
その中に、「張愛玲のアパルトマン」という一節がある。
張愛玲というのは上海出身の有名な作家だそうだ。
その彼女が暮らしたアパルトマンがまだ残っている。
上海のほぼ中央を横断する大通り、延安路を静安区まで来たら、常徳路に入ってすぐ、
片側2車線の大通りの両側には近代的な高層ビルが立ち並んでいる。
その一角に今ではちょっと場違いな、小ぶりの、しかし存在感が十分にあるビルが
ひっそりと建っている。
それが、常徳公寓だ。
上海では租界時代の洋館があちこちに残っていて実際に使いながらも保存されている。
ここもそういう洋館の一つなのだろう。
中に入ると、オースチンのエレベータがあって、専属のエレベータ係がいるという。
或いは居たと言う。
古いエレベータには白い手袋をはめた案内人が良く似合う。
アパートの住人を知り尽くした人だ。彼又は彼女のめがねにかなわなければ、
勝手にここの住人を訪れるわけにはいかないし、ましてやここに暮した人の話を
聞く事も出来ない。観光客がものめずらしげに入ってきて写真をとっても
「その表札は間違ってるよ」と教えてもらえないのだ。
しかし、今はもうよそ者は中には入れない。
入り口で門番が控えていて、関係者以外は入れてくれないのだ。
あまりにも沢山の観光客が押し寄せた結果だろう。
残念だが外から眺めて帰るとしよう。
上海、張愛玲のアパルトマン
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