冬の青森、秋田、雪の文学、温泉めぐり-06、太宰治疎開の家へ

さて、どこから行こう。
まっすぐ斜陽館を目指そうと思ったけど、さっき貰った地図を見たら、戦時中
太宰が疎開して暮らしていた家があるというのでそちらを先に行くことにした。
太宰が空襲を逃れるため、甲府やらあちこちに伝手を頼って転々とするんやけ
ど段々とどこにもいたたまれなくなってとうとう最後は津軽の実家を頼ってし
まう。自殺騒ぎや心中騒動、家長の兄からは殆ど勘当された身でありながら、
それでも家族は家族、目の前にすれば面倒は見てくれる。それで身を落ち着け
たのがこの家らしい。

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ドアを開ける。
誰も居ない。
「こんにちは」って大きな声をだす。「おーい」って更に大きな声をだす。
誰も出てこない。奥の方で人の気配はするけど返事は無い。
更に待つ。もうちょっと待つ。もうちょっとだけ待とう。
とうとう心配になって上に上って見ようとしたらやっと現れた。

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上に上がって説明の続を聞けという。えらい熱が入ってる。どうやら勢いに乗
ったら止まらへんタイプの人らしい。
いっぱい印の入った文庫本を片手に、ここが、この文章に出て来る〇〇の部屋
でここに太宰が座って、こちらに座った友達相手にこんなことを喋って、その
結果こんな文章ができて・・・・云々、かんぬん・・・。
太宰が好きでたまらんのやね。口角泡を飛ばさんばかりだ。
「どうですか!」とこちらを見るんで、慌てて、「なるほど」と言う顔をする。

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この机に座って執筆をされてたそうだ。
「ここに座ってモノを書くふりをすると文章がうまくなるそうですよ」って教
えてくれる。わしらは本気で座ってみた。なるほど、その後は文をすらすら書
けるようになったような気がする。

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ほんまやろか?
その横には洋間がある。元々はこの家全体が今は斜陽館になっている津島家の
本家邸宅の横につくられた離れで、太宰が疎開していた当時はまだ敷地内にあ
ったんやけど戦後の斜陽館を手放すときにこの建物だけ今の場所まで移動させ
たのだそうだ。
当時のお金持ちの洋間だけにすごいものだ。

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暖炉かと思ったらこれはワインセラーだそうだ。おしゃれやねえ。
わしらの背中ではまだまだ解説が続いている。
こっちはこっちでいろんなエピソードがあるのだそうだ。
〇〇〇の時に〇〇〇になって、〇〇〇が〇〇〇だったんですよ。
「どうですか!」、「なるほど!」
決して馬鹿にしてるわけではない。わしかって太宰治の本はかなり読んでいる。
殆ど読んでいるって言うてもええくらいだ。故郷の津軽を訪れたときの小説的
紀行文みたいな「津軽」も読んだし、来る前に読み直しもした。この本は何度
読んでもすばらしい。

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太宰が住んだという先入観を外したとしてもこの家の印象は良い感じだ。
和と洋がうまくこなれて入れ混じっていて違和感がない。和の中に無理に洋を
継ぎ足したようでもないし、洋の中に無理に和を嵌め込んだようでもない。

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こんな囲炉裏を囲んで酒を飲んだら楽しいやろと思う。
何となくぼーとして表にでる。
雪がちらついてきた。表通りはすっかり雪かきもされてるし車も通って雪が
ないけど、裏通りは結構大変だ。

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冬には色んなお店も営業してないらしく、昼飯を食うとこがあるのかどうか
心配になった。

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ありがとうございました。