少数民族の村
ホテルで朝飯を食っていて気がついた。
「ありゃあ何や?」ビルの5階やから下が見える。
「横断歩道みたいやで」
「屋根付きやし、ドーナツ型や」
「あんなん初めて見たな」
確かに濡れなくてええかもしれん。階段を上がってしまえばどこにでも行ける。
しかし、4角くてもそれはできるはずやし、4角の方が簡単で安くつくような気もするが、
まあどうでもええか。
今日は500kmほど走るという事で少し早い出発だ。
貴州は旱魃中のはずだが割と天気が悪い。
「いっそ大雨でも降ったら皆喜ぶのに」空は曇っているが雨と言う程ではない。
貴州路はおよそ田畑と山ばかりだ。延々と田畑が続く。山は山脈というよりは独立峰の
集まりに近い。碗を伏せたような小振りのなだらかでやさしい山がいくつもいくつも現れる。
「着きましたよ」
少数民族の村というよりは、寨と言った方が感じがでるかもしれない。別に砦のようという程の
意味ではないが、ちょっとだけ雰囲気が違うと言うほどの意味。
「少数民族の踊りを見たいですか」
来る途中の車中で予約すれば見れるということだったが、まあお断りした。わざとらしいものを
見るのも面倒だ。
門を入ると長閑な暮らしがある。
牛が「モォー」と鳴いている。鶏がちょろちょろ歩いている。
とうもろこしが干してある。
陶淵明の詩を思い出した。
「鶏鳴き、犬吠える・・」というやつだ。
いやそれより、最近は陸遊に凝っている。
こんなやつだ。
西村 陸遊
乱山深き処に小桃源あり
往歳漿を求めて門を叩きしを憶う
高柳橋に簇れるに初めて馬を転ずれば
数家水に臨んで自ずから村を成せり
茂林風は幽禽の語を送り
壊壁苔は酔墨の痕を侵せり
一首の清詩今夕を記すに
細雲新月黄昏に耿たり
岩波文庫、「陸遊詩選」一海知義編より
裏の方に壊れかけた門があって、外も感じが良い。
「ちょっと外に出ていいですか?」と聞くと、「いいけど犬に気をつけて」と言う。
なるほど野犬が数匹いる。外にでると、もっといる。
安全の為に飼っているのかもしれない。いきなり飛びかかってくるようではないが
ちょっと怖いので、びくびくしながら眺めてすぐ戻った。
詩は浮かばなかった。酔ってなかったからだろう。