蘇州古園の旅ー19

滄浪亭を心に刻む
「この横に建物があるやろ。昔ここが画の学校やったんや。勉強に疲れたら、この門を
くぐってこちら側の滄浪亭によく来たもんや。それで飽きずにこの亭の雰囲気を眺めて
いたんや」
「この木はなあ、昔は芭蕉と竹と梅の3種類がそろってたんや。もう芭蕉がなくなって
しもたなあ」
「あっちの建物の中に、昔私が画いた画が残ってるで」
「見たいですね」
「今は入られへん」
老師の中に想い出が駆け巡っている。
表にでた。
庭園の残像を頭に残して、堀の水に映る滄浪亭を入り口付近から見て見ると、実に
美しい。透明で静謐な空気が心に届いて来る。
水と木と石垣と建物が渾然と溶け合って一幅の画になっているのだ。
何百年の老木か、葉も花もない枝が細く長く複雑に伸びて水の中に映る枝と絡み合って
いる。
家に帰って、思い出しながらスケッチを画いた。
後日、それを老師に見せたら。
「滄浪亭はよかったなあ」といいながらスケッチを見てくれた。
それで、其の画を見ながら、さらさらと次の画題を画いてくれた。
勿論、その滄浪亭の入り口の印象が中心であるが、中景には更に、想像上の庭園の
内部が画かれ、遠景には蘇州の湖岸を思わせる土手と山が配されていた。
蘇州の景色は自然も建物も人のなりわいも皆、この人の頭の中に入っているようで
あった。
「滄浪亭が我が心」と題字を入れておられた。
江蘇の風景はやっぱり画になるなあ。