谷崎潤一郎の随筆に「陰翳礼讃」というのがある。
日本の美は暗闇の中にあると書いていた。
西欧の美は光の全ての色を重ねると透明になる、そういう明るさの中にあって、東洋や
日本の美は全ての色を集めたら黒くなる、そういう漆黒の中にあると言うのだ。
その極致が漆の黒さだというのだ。
だから、蝋燭程度の暗闇の中で漆を鑑賞したり、漆の食器でものを食べるということで
陰翳の中にそういうものが本来持つ美しさを見つけることができるというのだ。
文中にこんな表現がある。
・・・・僅かな燭臺の灯で照らされた廣間の暗さと濃さが違ふ。ちゃうど私がその部屋へ
這入って行った時、眉を落として鉄漿を附けている年増の仲居が、大きな衝立の前に燭臺
を据えて畏まっていたが、畳二畳ばかりの明るい世界を限っているその衝立の後方には、
天井から落ちかかりさうな、高い、濃い唯一と色の闇が垂れていて、覚束ない蝋燭の灯が
その厚みを穿つことが出来ずに、黒い壁に行き當ったやうに撥ね返されているのであった。
諸君はかう云う「灯に照らされた闇」の色を見たことがあるか。それは夜道の闇などとは
何處か違った物質であって、たとへば一と粒一と粒が虹色のかがやきを持った、細かい灰
に似た微粒子が充満しているもののやうに見えた。私はそれが眼の中に這入り込みはしな
いかと思って、覚えず眼瞼をしばだたいた。・・・・・・・・・・
:谷崎潤一郎、「陰翳礼讃」より。
暗闇をこんな風に表現できるなんてすごいものだ。
歌舞伎や能、文楽などの伝統芸能ももともとは蝋燭程度の光の中で見ると一番美しく見える
ようになっているという。
そう言えば、能を見た時も明るすぎて霊と現実との夢幻の世界の交流みたいなのが美しく
伝わってこないなと思ったことがある。文楽なども人形遣いがもっと暗闇の中に沈んで
人形の手や顔の白さが暗闇の中であやしく動けば、確かにもっとすごい世界が現れるのだろう。
日本画なども蝋燭の光の中で見るのが最も美しいのかも知れない。
そんなこともあって、前から和蝋燭というのを気にしていた。
和蝋燭の光には自然の揺らぎがあるという。
昔は自然の暮らしの中に、揺らぎや曖昧さの働きをするものが物理的に潜んでいたのだ。
そういうものの中での日々の暮らしが我々の心に自然と安らぎをもたらしていたのかもしれない。
今は全てがデジタルの世界だ。
便利さと共に知らず知らずに大事なものをなくしていっているのかもしれない。
それでまあ、一度和蝋燭を買って暗闇の陰翳と炎の揺らぎを感じてみよう。
などと余計な事を考えた。
調べてみたら、それほど遠くに行かなくても西宮にあった。
阪神電車、久寿川という駅で降りて、線路の海側を線路にそって神戸方面に戻るとすぐだ。
急行は止まらないがそれほど不便なところではない。
見通しのいいところにあるので近くまでいけばすぐわかる。
とりあえず、「清浄生掛け」というやつを買ってみた。
藺草の芯に櫨の汁を手で丹念に塗り固めたものだ。かっこいい。
一本で1時間ほどいけるようだ。
燭台も買った。かわいい。
灯をつけてみた。
「おおーーっ!!」ゆらいでいる。
何ともいえずええなあ。幻想的やないか。
特に何かをするわけではないが、時には、夜遅く、これで本を読んでみてもいいではないか。
かなりあぶない(見た目が)かな?
こういう大事な伝統工芸は絶対すたれないで欲しいものだ。
それにはやっぱり買って使わないといけない。
店名、「松本商店」
ジャンル 和蝋燭製造販売
住所 西宮市今津水波町11-3
電話 0798-36-6021
営業時間 9:30-18:00
定休日 日、祝
言語 日本語
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ありがとうございました。