熊野古道の旅ー05.那智の瀧へ

バスはまだ山に登らないで海岸線を走っている。那智駅に着いた。駅前で大きな荷物を持った
人達がのってくる。「犬までさげている」
動き出したら、「補陀洛山寺」が見えた。
何かの本で読んだことがある渡海船が祀られているところだ。
「渡海船」というのは恐ろしい話だ。昔あるえらい坊さんが、そろそろ自らの死が近いと
悟って、断食をして身を浄化し、南方の観音浄土を目指すため一人で船出をしたのだそうだ。
そして、迷いがでて命を惜しんではいけないと船の船室を外から釘付けさせて洋上に出て行った
という話があって、その寺の住職になって、或る程度過ぎると、まわりから、「ぼちぼちでんな」
という空気をつくられて、圧力感の末に、「私行きますわ」と泣く泣く言わされ、釘付け船で
船出するという悲劇が何百年も続いたのだそうだ。或る時、あまりにも若くして船に乗せられて、
「わしゃ、いやや」と最後は船を壊して逃げ出した人が出て、それでやっと終わりになったと
いう話だ。
「時間があったら見に行こか」と思っていたし、時間もあったが、よう考えたらあまりにも
時間の無駄そうや。バスの中からちらっと見ておくだけにしよう。ここから歩いて那智山まで
行くのが熊野古道歩きの一つのコースではあるが、わしらはバスでしゅーと行くのだ。
ここから登り道、那智駅で乗って来た人達が、時々降りる。スーツケース持って、犬ケース
持って、どこまで行ってきはったんやろ。と思っていたらもう大門坂だ。
ここでおりて、「大門坂」の古道を一気に登るのも一つのケースだ。
しかし、わしらは何弱やから最後までバスに乗る。瀧の前をぐるりとまわって、終点に着いた。
ちょっと戻って旅館?にチェックイン。

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「那智の瀧は4時半までですよ」と教えてもらって、急いで出発だ。
明日は朝から、余計なところは廻らずに難所と聞いている大雲取越えに専念したい。
今日はせっかく早く来れたから近場は先の廻っておこうという気持ちだ。
「先に青岸渡寺に行って、あしたの出発点を見ておいたほうがいいですよ」旅館のお兄さんの
いうとおりだ。すでにハーハー言いながら石段を上る。
お参りをしたあと熊野古道入り口を教えてもらう。その眼の先に、「那智の瀧」が見える。
「あれか」
「なかなかええね」
下を見たら、ちょっと雰囲気のよさげな建物が見える。「青岸渡寺宿坊尊勝院て書いたあるで」
本当はあそこに泊まりたかったのだ。精進料理が食べられて朝のお勤めもある。今回はそういう
雰囲気だろう。環境は抜群だ。しかし、事前に調べたらもう閉鎖しているのだそうだ。残念。
もう一度顔をあげると、正面に三重の塔が見える。
「あの裏を通って瀧に行くんやで」
「時間があんまりないなあ」
「急ごう」
この三重塔、かなりけばけばしい。中国やったらそれらしいけど、日本やったら浮いて見える。
鉄骨の補強も入ってるし。

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