杭州お絵かき勉強日記-065 さすがこれぞ芸の力、杭州で女義太夫

中国美術学院で珍しい催しがあった。日本から女義太夫をやる方が来られて、日中交流の公演をやられたのだ。
義太夫というのは、文楽の時に語りをするのが義太夫と言うことで親しみがあるが、義太夫だけで聞く機会と
言うのは日本でもあまりない。まして中国ではもしかしたら史上初公演かもしれない。
機会があって、リハーサルから見ることができた。
語りと三味線の呼吸あわせだ。なかなか合わない。1つには温度湿度の問題。日本に比べて湿度が高いようで
すぐに音が下がると言う。それで調整しながら引いても引いてもやっぱりくるってくると嘆いておられる。
それに、調子あわせてというかリズムあわせというかそれにも時間がかかっている。基本的な約束事はあるの
だろうがそれはきっとかなりゆるいもので、あくまでも語り手が主で三味線は従だから語り手のその演目をどう
語りきるのかと言う気分に合わせて三味線がリズムを作っていかないといけないのだろう。いやむしろ、三味線
が語りを盛り上げることすらできるのかもしれない。しかし、一歩間違えば音と声とがぶつかって足を引っ張る
ことになる。それならむしろ控えに控えたほうがいい。限られた時間のなかでぎりぎりと調整が続く。
みていてもはらはらする。息を呑むような緊迫感だ。
なるほど、小さな事にも妥協できないプロの世界があるのだ。
もしかしたら、本番を聞くよりもリハーサルと聞いたことの方が大きな経験だったかもしれない。

会場は、かなり広い。ぎっしりつめると3百人くらいは入りそうだ。殆ど宣伝もしてないし、日本でも特殊な
ジャンルやし、果たしてお客さんは来るんやろかと心配していた。
開場時間になって驚いた。ぞくぞくと客がくるではないか。中国人だけではない、海外の留学生も沢山来ている。
最終的には百人は越えただろう。
「すごいなあ、でもものめずらしさで来たんやったらすぐ帰ってしまうかもしれんなあ」なんて思ってもいた。

舞台が始まった。挨拶の後、中国語であらすじの説明だ。これで大体どういう話かわかるはずだ。
因みに、演目は「壷坂観音霊験記」と言うもの。お里と沢市の悲しい物語だ。
いつもは賑やかな中国の観客席もしんとしている。
ジャンと三味線が鳴って、語りが始まった。

沢市の苦悩、お里の悲しみ物語は悲劇に向かって走っていく。

そんな細かいことがわかるはずもない人達がかたずをのんで聞いている。

いよいよ、悲劇の頂点だ。沢市はもうどうにもならない嘆きを抱えて谷に身を投げる。

太夫が声をふりしぼる。

それを知ったおさとも後を追う。
三味線も音も太夫を追う。
リハーサルの苦労なんてなかったかのよう。こういうところがプロなんやね。
そして観音様が現れて大団円。

よくわからなかったはずの観客から大喝采だ。
言葉がわからなくても心を打つものは心を打つのだ。それが芸の力やね。
さすがプロフェッショナルだ。
その後は沢山の質問があった。それだけ皆さんに興味があったと言うことだ。
途中で席を立つ人も数えるほどだった。
考えてみれば、こういう芸能の世界は中国が大元かもしれない。そういう意味でもこういうことで
交流があるというのはいいことだと思う。

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ありがとうございました。