小林信彦、「うらなり」
夏目漱石のあまりにも有名な、「坊っちゃん」という本。
その本に脇役として、うらなり先生が出て来る。
坊っちゃんは、陽気で脳天気でいいけれど、あの本を、「うらなり先生」の立場から
みたらどうなるだろう。あまりにも理不尽な扱いを受けて、何も言わずに舞台から
退場していったあの人は、本当はどうおもっていたのだろう。
そして、その後どんな人生を送っていったのだろう。
坊っちゃんや山嵐のしたことはどうなんだ・・・
赤シャツと野だいこはどうなった・・・
マドンナは本当はどう思っていたの?
結局マドンナと結婚したのは誰なんだろう。
別の視点から始まった物語は、どんどん広がって行く。
又一つの人生絵巻だ。
これは、これで楽しい。
岡本綺堂、「影を踏まれた女」
「三月三日は昼ごろに一通の速達郵便が私の家の玄関に投げ込まれた・・・」
という出だしで始まる。
そして、この手紙である屋敷に集められた人達には有る趣向があった。
主の願いで、一人が一つずつ世にも奇怪な話をすると言う事だ。
そういう話を持ち合わせていそうな人が招待されたというわけだ。
青蛙神、利根の渡し、兄弟の魂、・・・・・・影を踏まれた女・・・
怪奇小説と言っても、譬えば和泉鏡花の話は何だか不気味でしかも美しい。
内田百閒の話は、気味が悪いが、どことなくユーモアがある。
岡本綺堂の話は、妖しく不気味だが、どこか哀しい。
私はそんな気がする。
渡し場で命を削って仇を待つ男・・・
夜な夜な、娘が覗き込む井戸の底には誰の顔が見える・・・
13夜の美しい月の夜に、影踏みあそびで影を踏まれた娘はどこにいってしまった・・・
綺堂の妖しい昔語りだ。
毎週、火曜は最近夢中で読んだ本の話です。