最近夢中で読んだ本の話、内田百閒

  • 2009年12月29日
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内田百閒、「ノラや」
内田百閒と言えば夏目漱石の弟子だそうだから、これは、もう一つの、「吾輩は猫である」
と言えるだろうか。と言っても、猫が主人公でものを言う訳ではなくて、猫に狂って
しまった男の物語である。
それでも猫が主人公であることは間違いがない。
大事にしていた猫がある日突然いなくなる。散歩にでかけたまま帰らないのだ。
そこから男のモノ狂いが始まる。猫狂いといったらいいだろう。
あけてもくれても、猫の帰ってくるのを待っている。
風が吹いても、箸がこけても、「やれ帰ってきたか」と思う。
あらんかぎりのつてを訪ねる。新聞に広告をだす。ラジオで放送してもらう。
こんなに純粋に狂える男は実にうらやましい。
そしてその身代わりといえる猫が到来した。
又、この猫にモノ狂いだ。
終わってみれば、唯の猫の話だ。
唯の猫に対するモノ狂いの世界をこんなに見事に描き切ってしまうすごい人だ。

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内田百閒、「旅順入場式」
近代の二大怪奇小説の作家と言えば、岡本綺堂と内田百閒だと聞いた事がある。
内田百閒は好きだが、怪奇小説は読んだ事がなかった。
実はこの本がそうだった。
実に内田百閒流だ。淡々と誠実に、ひたむきに、そして頑固で、そういうところが
何となくボケになっていてユーモラスですらあるのが百閒流といえるが、それに
恐ろしさ、気味悪さが入っている。
出色の作品だと思う。
夢の続きが現実であったり、現実の話をしているようにおもっていると夢の中だったり
語る本人が恐ろしがって、気味悪がっている。
この短編集のうち、「山高帽子」に出て来る作家は芥川龍之介だそうだ。
彼の自殺前夜の風景が百閒流に描かれていて興味深い。

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やっぱり百閒は奥が深いなあ。

毎週火曜は、最近夢中で読んだ本の話です。