「空山一路」
若い頃、たまたま田舎の実家に帰ることになった。しかもJRの最終列車だ。最寄駅に着いたら深夜12時を回ってる。タクシーもない。
歩いて40分くらいの道のり、若いから大丈夫。
市街地を抜けて、トンネルを越える頃には人はおろか車も走ってない。街灯の灯りをたよりにとぼとぼ歩く。だんだん人家も減っていく。
街灯があるとは言え薄暗い。なんだか気味が悪い。
小さな峠に差し掛かった。後ろの方で気配がする。振り返ってみると野犬がいる。
1匹、2匹ではない。10匹ちかくもおるんではないか。こっちをうかがってる。
すぐに襲いかかってくる風ではないけど、とても怖い。
一気に逃げるには家まで距離がありすぎる。じわじわ歩く。
走ったら、きっと追いかけてくると思う。ビクビクしてても襲ってくるかもしれん。
体をシャキッと立てて、力をこめる。ゆっくり歩く。
心臓バクバク、口カラカラ、怖い。
時々振り返る。ずっと着いてくる。
襲っては来ない。
いやはや。
最後の直線の長かったこと。
「美味礼讃」
随分爺さんになってしまったけど、美味いもんいっぱい食いたいというあさましさはまだまだ残ってる。
あっちこっち、金には糸目を随分とつけながらも美味いもんを探しに彷徨ってる。
それで、いったい今まで食ったもんで何が一番うまかったか。
昔愛読した開高健の本では、世界中のありとあらゆる珍味佳肴を食い尽くしても究極は水であると喝破されてたようでもあるけど、わしはとてもそんな境地には程遠い。
これから認知症やら記憶喪失が進んで、今まで食ったもんもどんどん消えていく。
さて、何が残るやら。
昔、中国の福建省、武夷山などを見に行った時、永定土楼というところに立ち寄った。円筒形の木造集合住宅みたいなとこで、今も現役生活してはる。とても良いところやったけど、飯を食うとこがなかった。近辺の集落にも全くなさそう。困ってしまって、住民の人に聞いてみた。ちょうどそこに居合わせたおっちゃんが、「わしが作ってやろか」と言ってくれた。ありがたい。さっそく家の台所でちゃっちゃと料理してくれる。めっちゃ手際が良い。キノコやら燻製豆腐やら山羊肉やら豚肉やら野菜やらであっという間に5品できあがった。それがメッチャ美味しい。忘れられん味と経験だった。
中国の別の街角の臭豆腐。百メートル先からでもそれとわかるクッサイやつだ。食った自分でもその匂いに辟易するくらいやけど、ねっとりトロリとしてとても美味しい。
上海蟹の紹興酒漬け。ベトナムのソフトシェルの蟹。間人蟹。「黄泥螺」。
いくらでも思い出す。キリがないですなあ。
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