画を描く筆の話

「弘法筆を選ばず」という言葉があるが、画の老師は将にその通りだ。
さして高級とは思えない筆を手に持って、太い線でも細い線でも、松の葉でも、滝の糸でも
大木の幹でも笹の枝でも、豪快な岩山でも、繊細な遠山のシルエットでもなんでも
かんでも一本の筆で描いてしまう。それもごく自然に描き分けている。
実に凄い。
私はこんな真似はできないから、筆を選ぶことになるが、こんな風に多用途に使い分けられて、
使い心地の好い筆なんて存在しないように思える。

それで今のところ十分納得できてないながらもこの3種をいろいろ試しているところだ。

これは、黄山に行った時に麓の文房四宝の店で買ったものだ。安徽省は文房四宝で
有名なところだから期待していた。それで、その店のお勧めをだしてもらい
「水墨画を習っているから」と色々実際に試させてもらいながら筆選びをした。
「日本から来た有名な画の先生だ」とか歯の浮くようなお世辞にも負けないで、
200元を100元ほどに値切って買ったものだが、結構多用途に使えて使い心地が好い。
しかし、大分ちびてきた。

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これは日本で買った、馬と羊の毛を混ぜたもの。
「やっぱり筆も今は日本の方が技術が上なんかなあ」とも思い、買ってみたものだ。
たしかに硬さもあるし、しなりも滑らかさもあって感じは悪くはないが、ちょっと
柔らかすぎる。堅い線が引けない感じだ。造りはいいけど残念だ。

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これも日本で買ったもの。「山馬の毛」ということだ。
「硬い、細い線を描きたい」といったら出してくれたもので、「山馬」というのは
山にいる野生馬みたいなものなんだろうか、「もう手に入らないよ」、「貴重な筆だ」
という話だったし、「滝の糸や柳の枝を書くのにはこれを使ったら好い」という話
だったので買い求めたものだ。
たしかに手ごたえは好い、硬い鋭い線が描ける。気持ちは好いが、これで全部描くという
わけには行かないのが残念だ。

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次に北京に行った時に、筆の老舗を尋ねて、もう一度中国筆を試してみたいと思っている。

毎週月曜はこだわりのモノの話です。