能、「融」

前に中途半端な能を見に行ってがっかりした話をしたことがある。
今回は、本格的なヤツだ。
地下鉄谷町4丁目の駅を出て、少し東に行くと、上町筋に当たる。そのまま
路を渡って上町筋のまま右に曲がると難波宮あとの大きな公園が左手に見えるが
かまわずにさらに進むと大槻能楽堂に行きつく。
女子高校生を一杯引率した団体も前後して歩いていて賑やかだ。
先生は楽しそうでええなあと思っていたら同じ場所に着いた。
「融」というのは、こんな話だ。
京都六条に河原院という庭園があって、それは源融という人が塩竃の絶景を模して
造ったというのだが、今はもう荒れ果ててしまっている。
ある日、旅の僧がその荒れ果てた庭園にやってきた。荒れ果ててはいるが、何やら
ゆかしげだ。
「さて、ここはどんなところなんだろう?」
すると、潮汲みがあらわれ、融の霊が現れ、舞台は霊の支配するところとなる。
この時の解説によれば、六条というのは、昔から鴨川がぐいっと曲がっているところ
なのだそうだ。そして、むかしは、貧しい人が死んだら、川に流して捨てるという習慣も
あったようで、そういう死体がそのぐいっとまがったあたりに貯まっていると言う事も
よくあったようだ。
だから、昔から六条のあたりは死霊がうろつくややこしい場所だったらしい。
現に源氏物語でも、六条あたりの廃邸に彼女を連れ込んでいたら、とうとう物の怪に
とりつかれてしまったという話もあるくらいなのだ。
しかし、その院も荒れ果て、そんなところにいた鬼も、妖怪も時が経てば老いてしまう
のだろうか。
「鬼老いて河原の院の月に泣く」蕪村
能というやつは実に面白いということがよくわかった。

toru101007

毎週木曜は映画、音楽、書画に関する話です。
が、今回は能を見た感想です。