西加奈子、「サラバ 上、下」
これは異色というか、変わったというか、馴染みにくいというかなんとかく微妙な
感じを抱きつつ読んでいた。真面目なようでチャラいようでやっぱりチャラいんと
ちゃうやろか?
舞台はいきなりイランから始まる。永遠の都テヘランだ。イスラム紛争で激動の街でもある。
父の転勤でこの街で暮らすことになった圷(あくつ)歩の少年時代。親友もできた。
楽しいことはいつまでもつづくかと思われた頃、突然の別れ、今度は日本に戻る。
美しくて優しい母はなぜ父と仲が悪くなったのか?
父は一体何をしたのか?
母はどうなってしまったのか?
とてもエキセントリックな姉、貴子はなぜ、 サトラコヲモンサマ を讃える道に
進むのか?
サトラコヲモンサマ を生み出したおばちゃんに誰もが心を救われたはずなのになぜ?
エジプトへ、又、テヘランへ、姉は巻貝になってしまうのか?
母はなぜ勝手に幸せになりたいのか?
父はなぜ、そこまでストイックなのか?
壮大なようで波乱万丈なようで、都合よすぎるようで、面白いけど、馴染めない。
ジャスミン革命の時代、アラブの激動の時代だ。それなりにワクワクするけど、
せっかくわしが見たこともないアラブの世界に連れて行ってくれるんやったら、
その地の人と暮らしがもっともっと立ち上がるような気分の中にわしを誘って行って
欲しいなと思った。
とても面白いんやけど何か不満。
ケン・リュウ、「母の記憶に」
普段あんまりSFは読まへんのやけど、前にこの人の「紙の動物園」を読んで、
とても良かったんで、この人の本を読むのを楽しみにしていた。
この人の本には、いつもわしの知ってる或いは知らない漢詩や説話、名文が
でてきて、なみなみならぬ完成と素養を思わせられてしまう。
今回もとても素晴らしい短編集だ。
烏蘇里羆
満州の極寒の荒れ地に幻の烏蘇里羆(ウスリーひぐま)を捉えにきた帝国陸軍の
ロボット軍団。なぜかこの人の小説のなかではいつも日本帝国は滅びてなくて
健在だ。そして今や戦士も馬も戦闘ロボットだ。蒸気機関とメカを巧みに操って自由自在、
無敵の戦士だ。魔性の烏蘇里羆を待ち受ける。
しかし、魔性の熊の方が何枚も上だ。荒唐無稽のSF話のようでいて、自然の神秘や
恐ろしさに対する畏敬や心の葛藤、苦しみ、様々な人間的なものが心を打つ。
草を結びて環を銜えん
昔、中国、大明国末期の頃、北方の異民族、後に清という国をつくる民に、侵略されて
南の大都会揚州で起死回生の大戦闘があった時に負けた明側の兵士だけでなく
民もふくめて大虐殺されたことがあった。その時に我が身を捨てて、少しでも
愛するものや民衆を救えるチャンスを作ろうと身を捨てて秘策を施す賢い遊女、
侍女の雀が伝えるものは?
母の記憶に
いつも母に会うのはわずかな時間だけだ。それは何故?
限られた命のなかで娘を見守ることができる唯一の方法とは?
時間と空間の流れのなかで命の儚さと生きることの悲しさが胸を打つ。
存在
いつかはこんな時代が来るんやろか? 遠隔介護って?
どの短編もとても面白い。簡単に読んでしまうのが勿体無い。
じわっと胸を打つ物語が満載だ。
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ありがとうございました。