堀田善衛、「定家明月記私抄」、「定家明月記私抄」続編
定家の時代は沢山の貴族が日記を書いていたようだ。
いついつどんな行事が何のためにどこで行われたか。参加したのは誰と誰でそれは
どんなふうに決められたのか。どんな服装でいったのか、服装の色はどうで材料は
何なのかそれはなぜなのか、歩いて行ったのか馬に乗ったのか輿に乗って行ったのか、
共は何人でどういう人たちだったのか。そう言う事を事細かく書き記していたのだ
そうだ。何故かと言えば、何をするにも先例にのっとらなければならないし、勝手な
ことをするわけにはいかないので、行事を担当したり、参列したりするばあい、
解らなければこういう日記を参考にするしかないのだそうだ。自分の日記に書いて
いなければ他人のを借りないといけない。それでも貸して貰えない場合もあると
定家も日記の中で愚痴っている。
・・世上乱逆追討耳ニ満ツト雖モ、之ヲ注セズ。
紅旗征戎吾ガ事ニ非ズ。・・・・
すごい言葉がでてきた。
世は戦乱の時代だ。平家が出てきて、栄華を極めたかと思うと、源氏が出てきて
滅ぼされる。その間に何度戦があったことか。
都も荒みきっている。
そんな中で、そんなのはやかましいだけだ。しったこっちゃないと怒っているのだ。
その文章すら白氏文集を引いている。
この時代、日本の精神文化が世界でも例を見ないほど洗練の極みに達していた。
それゆえにかどうか男女のモラルなども全く意識の外だったようだ。
さらそれ故にかどうか、戦乱の中、暮らしぶりは没落する一方だ。
一方では武士が刀と規律をひっさげて都を支配しようとしている。
そんな中でかたぶつのようでいて、沢山の妻や子をもうけ、日々の悩みは出世が
遅い事。荘園から金が入らない。
乗って行く馬がない。着て行く着物がない。
日記のあいまからぶつくさぶつくさ口をいっている定家の姿が立ち上がってくるようだ。
和歌の家のオーソリティ、総元締めの権力者のじたばた生活が楽しくうかがえる。
でも、この本のように整理して解説がしてなければ、そのまま読むなんてとても無理
だと思う。
毎週火曜は最近夢中で読んだ本の話です。