カズオ・イシグロ、「充たされざる者 上、下」
カズオ・イシグロは大好きな作家の1人だ。今、ノーベル賞の話が出るたびに
話題になってる某日本作家よりはもっともっと応援したい作家だ。もう既に、
日本国籍ではないんかもしれんけど、日本人的な感性をするどく持った作家だ
と思っている。とても英語から翻訳された作品だとは思えない。
舞台は、どこか東欧の一地方都市。とおもわせすようなところ。
そこに1人の高名な(らしい)初老の?気難しげな?ピアニストがやってくる。
到着したのは、ある落ち着いた昔からの格式のあるらしげなホテル。そこで荷
物を受け取るのはポーターだ。何かの流れでポーターの仕事の話になる。この
ポーターが如何に自分の仕事に誇りを持っているか。ポーターの仕事とはそも
そも何なのか。あるべきポーターの姿とはいかなるものなのか。そしてその仕
事を通して仲間達にどのように支持されるようになったか。微に入り、細に渡
り延々と話し始める。まるで日の名残の執事の話のようだ。こういう描写の力
はすごいと思う。そして話はいつのまにか、ポーターの娘ゾフィーとその子ど
もボリスの話になる。長い間口を聞いてないのだそうだ。なんとかゾフィーの
心を解きほぐして欲しいというような話になる。が、驚いたことにボリスはゾ
フィーとピアニストの間に出来た子供のようなのだ。ええっ、話はどないなっ
てんのん?と驚くまもなく、舞台は町の中心らしきところから郊外にあるらし
き娘の家に向かう。
そして果てしなく話しの結び目がからみついていったいどこまで行ってしまう
のか思っているうちに老指揮者がでてくる。その元妻がでてくる。そちらの確
執も果てしないものだ。どこでどうなってしまうんやとわけわからんようにな
る前にドアを開けたら、演奏会が行われるはずの部屋につながっていた。
そこから話は更に複雑に。
いったい何時になったら演奏会が開かれるのか。
指揮者はどうなる?
シュテファンが果たして前座でピアノ演奏ができるか?
元妻の心を取り戻せるのか?
登場人物の悩み苦しみ、感情の発露の描写や、風景や建物の描写が又すばらしい。
物語の空間も捩れてはつながり、まるで物理学の多次元空間やトポロジーの世界
のようでそれがまた面白い。
アンリ・ルソーやルネ・マグリット、ポール・デルボーなどのシュールな芸術の世
界にそのまま入り込んでしまったかのようだ。
実におもしろい。
この作家の企みに翻弄されてしまう。
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