遠藤周作、「王国への道」
夏の暑い日であった。言葉のよく通じない運転手とたった二人でアユタヤの廃墟を
訪れた事がある。ガイドブックの地図を指差して、「ここへ行こう」、
運転手も地の利はよくわからないから、聞きにいく。なんだかんだでドタバタと
廻ったことであった。どこも既に廃墟だ。かっての栄華を思わせながも、
破壊されてから朽ちている。そして、感じるのは仏への帰依の篤さだ。
廃墟のなかで、巨大な涅槃物が雨風にさらされながらも静かに微笑んでいる。
線香の煙と祈りが絶えることはなさそうだ。
今は、河の貧しい村があるだけだ。
この本を読んでいると、あの廃墟が生きていた時を思ってしまう。
この地に日本人がいて、こんなにドラマチックに生きていたんだと思うと
実に楽しくなる。
ふと入った道端の食堂で隣の人の食っているのを指差して注文したアジア飯も
美味しかったし、又行きたいところだ。
帰りに運転手がある一角を指差して、「日本人町の跡だ」と言っていた。
海野弘、「アール・ヌーボーの世界」
世紀末の妖しい気分の中でアール・ヌーボーがどうやって生まれ、どんな軌跡を
辿っていったのか。そして機能主義の台頭の中でどうなふうに衰退していったのか
アール・ヌーボーの歴史と世界を実に克明に丁寧に解説している。
さすが稀代の博覧強記といわれる人の文章だ。
かなり前になるが、ツアーで中欧を訪れたことがある。
ウィーンの街で自由行動になったらすかさず、クリムトやエゴン・シーレを探しに行き、
プラハの街ではミーシャ美術館を見つけに歩き回った。
楽しい思い出だ。
街角を歩いていたら、普通の生活の普通のビルの中にアール・ヌーボーの匂いを
突然発見したりする。そういう街にいると楽しい。
毎週火曜は最近夢中で読んだ本の話です。