ニャチャンまで
「ニャチャンには何時に着くんですか?」
「夜の7時だよ」
「約7時間ですね。遠いなあ」
旦那は上の段に寝に上った。上に上がるのは大変だ。ドアの内側の壁のところに
小さな足ののせステップが両側に一つずつあるだけだ。両側のベッドに手をかけて
エイっと体をもちあげステップにわずかに足をひっかけて攀じ登らないといけない。
「こんなんできへんわ。下でよかった」とつくづく思った。
実は自慢じゃないが鉄棒の逆上がりが未だにできないのだ。
子供の時にもう少しがんばっていればよかった。
ベッドの頭は、窓側にある。そこに小さな電球があって、多分読書灯になっているのだ。
しかし、それだと寝ころんだら通路側のドアしか見えない。ドアには大きなガラスが
ついている。最初はそのまま外が見えるからいいなあと思っていた。
しかし、よく見ると、これはハーフミラーだ。中から外は見えずに自分の顔が写って
いる。外からは中が見えるのだ。
「まるで監視用やなあ」やっぱり牢屋見たいだ。自分の顔をずっと見ててもしようが
ないので、頭を逆にして、寝ころびながら外を見る事にした。
「これやと快適や」
となりの奥さんも反対向いた。
本を読んだり、外の景色をみたり、うつらうつらしたり。
時々旦那さんが上から下りて来る。
夫婦で喋る時は勿論ベトナム語だ。さっぱりわからない。
喋り厭きると、二人でじっと外を見ている。奥さんがさりげなく旦那さんに
寄り添っている。
どういう人生をしょっているのかわからないが、良い感じだ。
時々私に話しかけてくる。
子供の話。仕事の話。アメリカの話。
どこかの駅でえらい長く停車した。
「遅れへんかったらええんやけど」