メコン、豊穣の大河
ここからは船に乗ってメコン河を渡り、中洲の村に行くのだ。
これだけの団体をどうするんやろと思っていたら、幾つかの船に分乗させるのだ。
ライフジャケットをもらってから、適当に乗って行く。ガイドも手際がいいが、
旅行者も手慣れたものだ。
無理やり英語ツアーに入ってちょっと心配だったけど、大丈夫だろう。
メコン河は二つのパターンを想像していた。
一つは中国の長江みたいな悠久の大河だ。悠然と茫洋と流れている。
もう一つは、映画「地獄の黙示録」に出て来たような、鬱蒼とした密林の中の河だ。
こちらの方は、多分、もっと上流、カンボジアやラオスの方まで行かないと体験
できないだろうとは思っていたが、少しは期待していた。
実際は大違い。
まるで海に乗り出すような勢いだ。
対岸は遥か彼方にある。水は長江のように土色に濁っている。
さざ波どころか、結構大きな波がたって、間断なくゆれている。
「かなり揺れますね。油断したら酔ってしまいそう」
今回乗りあわせた、日本人の青年が言う。
日本語ツアーグループ以外はこの青年と私だけが日本人だ。すばらしく流暢に
英語を喋るから頼りになりそうだ。
「遠くを見てた方がええよ」
前に、ハロン湾クルーズに行った時に、船員さんから身振りで教えられた知恵だ。
水上生活者の水上小屋があちこちにある。
水上給油所もある。
漁船もいる。
岸辺には、バナナや芭蕉の木だろうか、南方独特の木々が茂っている。
波の荒々しさと似合って、ダイナミックな豊穣の地だ。
「えらい暑いなあ。帽子を持ってきたらよかった」