「夕霧花園」。
タン・トゥアンエン著。
かって雲海に浮かぶ山に日本の天皇の庭師だった男が住んでいた。
前に、マレーシアのペナン島、ジョージタウンなどに旅をしたことがある。その時はクアラルンプールから列車に乗ってイポーまで行き、あとはバスの旅であった。帰りは全部バス。
列車の時は気がつかなかったけど、バスに乗ってた時、イポーを過ぎてしばらくしたら、遠くに山岳地帯が見える山の中を走っていた。疲れてボーっとしながら窓外を見ていたら、不思議な風景を見た。
ここは南国、緑滴る楽園、見渡す限り椰子の木やら、バナナの木やらと思い込んでたら、豈図らんや。
日が暮れて、山の端に夕霧が立っている。霞んだ山里に小さな村がある。田園の暮らしがある。
霧が全てに霞をかけて、とても幽玄な風景を作っている。
まるで、水墨画の世界ではないか。
じきに通りすぎてしまったけど、しばらくは夢の中のようであった。こんなとこがこの国にあるんやねと、
とても不思議だった。
ここをまた見にくる機会があったらええなあ、いやまた是非きたいなあって思った。
この本を読み始めて、もしやと気になって地図をみたら、たぶん、やっぱり、あのあたりやと思う。
なるほどなあって腑に落ちた。
マレーシアが日本の占領下に落ちた時代。
裕福なストレイツ・チャイニーズ系の一族であったユンリンの家族たちは、進駐してきた日本軍に捕らえられた。家族バラバラ、姉妹二人は収容所へ。
姉は無理やり慰安婦に。そして絶望の中、死んでしまった。生き残った妹は逃げることができた。
そして、時が過ぎた。
マレー半島の独立の時代。共産ゲリラとの戦いの時代。
ユンリンは裁判官に。しかし、姉のことが忘れられない。
姉は日本庭園をこよなく愛していた。姉が愛した庭園を思い出のキャメロン高原につくるのだ。
わたしの全てをかけて庭を作る。それには、日本人の庭師、ナカムラ・アリトモの助けが要る。
橘俊綱の作庭記を今のよにに蘇えらせる男?
天皇の庭師だった男?
果たして、その男が協力するのか?
「夕霧花園」は造り始めることができるのか?
アリトモの木版画を訪ねてきたヨシカワ・タツジとは?
彼がかかえるモノは何か?
アリトモは借景の達人? そして彫モノ師?
雲海のなかの「夕霧花園』?
姉がパビリオンオブヘブンであるのか?
かっての恋人、フレデリック・・
マグナスとエミリー。
ストレイツ・チャイニーズ達とかつての支配者、英国人たち。
日本軍がマラヤの占領でやってきた理不尽・・
悲しい歴史が立ち上がる。
風がある。旗がひらめいてる。
動いているのは風か? 旗か?
いや心だよ。
とても面白い。
なんだか、えらくもったいぶった話でもあるけど、風景がとても良い。
わしの勝手なおすすめ度。
星四つ。
「マレー素描集。」
アルフィアン・サアット 著
マレーシア暮らしのスケッチ。
上述の「夕霧花園」とこの本、マレーシアつながりで一緒に読み始めたわけではない。たまたま図書館に予約してあったら、偶然同時に来てしまった。
何かの縁だ。
改宗
ふれあわない手
三人姉妹
パヤ・レバー 午前五時
村のラジオ
日没後の礼拝のあと
泊まり
ゲイラン・セライ 午前六時
ハントゥ・テテクのお話
冷ややかな慰め
犠牲
タンピネス 午前七時
わかりやすいのにして
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「夕霧花園」とは違って、とても淡白なさらっとしたお話集。
まさに素描集だ。
とても良い。
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日没後の礼拝のあと、ジャおばさんは決まって片手にビニール古路を持って、一階建てアパートの正面の段を降りていった。茶色いゴムサンダルをはいて公園に行く道すがら、ずっと笑顔を浮かべていた。
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それからジャおばさんはビニール袋をほどき。新聞紙を何枚かだして地面に広げるのだった。そして袋から魚を何匹かつまみ出すと、紙の上に広げた。
そして仲間達が来るのを待つ。
しばらくすると灰色のぶち猫が姿を見せた。ためらいがちな様子で、
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多民族な人たち・・
多宗教の人たち・・
満たされた人、満たされない人・・
老いたる人、若い人・・
いろんな素描が流れていく。
とても良い。
わしの勝手なおすすめ度。
星四つ。
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