范成大、「呉船録(ごせんろく)・攬轡録(らんびろく)・驂鸞録(さんらんろく) 」
范成大という人は宋の時代の硬骨の官僚である。
当時は、金に侵略され、首都をはるか杭州まで移動せざるを得ない状況の宋にあって、
当然ながら不平等な関係に耐えていた宋皇帝の意を受けて、金の首都、燕京まで
関係改善の旅に出る、この紀行文が攬轡録である。
つまり杭州から北京の旅だ。
生きては帰れないという覚悟が良く出ている。
その成功で名声を博した范成大が桂林の長官として任地に赴く旅が驂鸞録である。
これは、蘇州-杭州-桂林の旅だ。
又、最後の任地、成都で病を得て、任を免ぜられて帰国する旅が呉船録だ。
これは、成都-武漢-九江-南京-蘇州-杭州の旅だ。
いずれにしろ、行った事のある場所が多く。その分非常に興味深い。
又、当時の官僚は、科挙に合格する為、凄まじいレベルの詩文の勉強をするので、
優れた官吏であると同時に優れた文人でもあった。
それが、この紀行文によく現れている。紀行の文の描写力もすばらしいし、
景観の場所で、時と場所に応じた詩を作るだけでなく、そのシチュエーションを作る
ために建物を作ったりもしている。
当時の文人高官の振る舞いがよくわかって面白い。
色川武大、「なつかしい芸人達」
この人は、阿佐田哲也という名で、「麻雀放浪記」など放蕩無頼の生活を描いている
異色の作家だ。阿佐田哲也名の作品も面白いが、色川武大名の作品も好きだ。
この本は、戦前から戦中、戦後にかけての、浅草を中心にした芸人の世界、
そこから派生して、映画やラジオ、テレビの世界、そういう世界の表側というよりは
裏側近くで生きた芸人達の生き様を、この人の目で優しく見ている。
自分の生き様を見るようで、何故か気になる人、難儀やけど応援したくなる人、
私の世代では名前しか知らない人も多いが、気持ちが優しくなる好い本だ。
毎週火曜は最近夢中で読んだ本の話です。