「文豪、社長になる」。
門井慶喜 著
「文藝春秋社」を創った人の話。
とても楽しい。本好きのわしにとっては、親しみのある文学者が次々と登場するし、それぞれの当時の交流関係がとてもよくわかるように描かれてるのが嬉しい。
読み始めたらやめられへんくらいだ。
物語はいきなり、巨匠、夏目漱石の葬儀の場面から始まる。
第1世代の弟子たち。小宮豊隆、森田草平、岩波茂雄、鈴木三重吉・・
第2世代の弟子たち。赤城桁平、和辻哲郎、内田百閒・・
第3の弟子たち。松岡譲、久米正雄・・
菊池は、弟子でありながら、時事新報の記者としてやってきた。形見が狭い。
そして、芥川は来ないのか?
同人雑誌が乱立した時代。
菊池は芥川や久米、成瀬、松岡たちと共に新思潮を創刊していた。少しずつ文壇へ。
芥川は何かと助けてくれている。
そして、芥川に誘われて、大阪毎日新聞に入る。作品が人気になっていく、そしてとうとう「真珠夫人」の大ヒット。いちやく文豪に?
そして、同人雑誌、文藝春秋が創刊される。ここから菊池の新たな挑戦が始まる。
直木三十五との交流がおもしろい。難儀なやつ、破天荒なやつでありながら、得難い友でもあった。
芥川と直木への想いが後の文学賞につながっていく。
直木の案内で、芥川や菊池、宇野浩二、田中純、植村宗一が京都を歩く旅がとても面白い。
直木に引きずられるように歩く、ひたすら歩く。
七条、三十三間堂の「わらんぢや」から河原町を北へ北へ、二条通りまであるいて、「鎰(かぎ)屋」で紅茶を飲むという話。
「わらんぢや」って、ふろふき大根で有名な店だったらしい。これは谷崎潤一郎の「陰翳礼讃」にも出て来る有名な店だ。今は、もうない。このあたりに、「わらじや」っていう老舗の鰻屋さんがある。こっちは今でもある。「うぞふすい」のコースを食べさせる有名店やけど、同じ店ではなさそうだ。
とても紛らわしいけど詳しい事情はわからへん。
「鎰(かぎ)屋」も今はない。梶井基次郎の「檸檬」に出て来るレモンを買った店の向かい側にある和菓子屋さんで喫茶ができたらしい。きっと直木さんは、京都のここぞというお店を案内したんやろけど、他に人には伝わってたんやろか?
菊池の「文藝春秋」はどんどん大きくなる。
会社経営の難しさも?
光と影が?
戦争がヒタヒタと・・・
とても面白い。
作家たちの裏話がとても生き生きと立ち上がる。
ええですなあ。
わしの勝手なおすすめ度。
星四つ。
「愚か者同盟」。
ジョン・ケネディ・トゥール 著。
「太ったドン・キホーテの物語」
わけわからんけど笑える。とても面白い。
イグネイシャスは30歳になる独身男性だ。
とんでもない男? 縦にも横にも巨大な男。奇妙な帽子を被ってる。
大学を出て、大学院で修士号までとってるのに働いてない。働こうとしない。
母と二人暮らし。いま自分が働かないとはどうのこうの・・、働けないのはどうのこうの・・
屁理屈が山ほどある。自分は何も悪くない。
食いたいもんを食って、ゆるゆる動く。
ときどき、腸の具合が悪くなる。その時は動いてはいけない。
母親が車で事故を起こした。弁償金が必要だ。とうとう彼も働かんとあかん。
職をもとめて、西へ東へ。
やっと、どさくさにまぎれてリーヴィ・パンツ社に雇ってもらえる。
資料整理だ。彼の整理は簡単明瞭、片っ端から捨ててしまう。
仕事が早い、どんどん片付く、意外と高評価? 知らぬが仏。
調子に乗ってどんどん勝手なことを・・
認知症の婆さんは? とんでも男に煽られた社員たちは?
大トラブルの果ては、こんどはホットドッグ屋に?
そこから又々、珍騒動。
いったいこいつは何なんだ? 人事を超越した哲学者か?
登場するキャラクターたちがとても面白い、とても生き生きしてる。
この男にかかったらまるで愚か者ばっかりやけど、わしからみたらとても普通の人たちやないやろか。
この男にも愛人がいてる。それがまた超変人なんではなかろうか?
登場したとたんに舞台はしっちゃかめっちゃかに。
果たして、何がどうなるんや?
行き着く先はあるんかいな?
いやはやとても面白い。
何かのためになるわけでもないけどね。
わしの勝手なおすすめ度。
星四つ。