「バイナル・カスライン」。
ナギーブ・マフフーズ 著。
すべてはアッラーの思し召しなのだ。
前に、この作家の「ミダック横町」という本を読んで、とても惹きつけられた。わしの好きなアジアの混沌がたちあがってくるような人々の描写が良い感じであった。
その時に、この作家がノーベル賞をもらうきっかけになった超有名な三部作があるというのを知って興味を抱いた。その1がこれである。
カイロの誰もが知る「ハーン・アル=ハリーリ」に程近い裏通り「バイナル・カスライン」にまつわる物語である。
第1次世界大戦の後、エジプトに独立運動が起こり始めた頃、この通りにある旦那が住んでいた。表通りで雑貨店を経営する金持ちのおじさんだ。酒と女が大好きで、毎日、朝方まで友人たちと飲んで遊びあかして家に帰るのがアッラーの思しめしと思っている。
しかし、家の中ではどうにもならん頑固親父で、妻や子供たちには、イスラムの戒律をことこまかく守って暮らす暮らしを押し付けている。
妻アミーナは夫の放蕩三昧の暮らしを批判することは許されない。どころか、朝帰りの夫を待ってあらゆる世話をしないといけない。子供たちが神の教えに反する行動をしないかどうか見張りしつけるのも彼女の仕事だ。
5人の子供がいる。長男ヤージーンは先妻の子、なぜか精力絶倫、次男のファフミーは大学生、もしや学生運動? 三男のカマールは皆に愛される無邪気な少年。長女のハディーガは結婚を焦ってる。次女アーイーシャが美人やから遅れをとるのではないか?
さて、父の圧政に抑圧されながらも、子供たちは人生に目覚めて行く。
妻も時には冒険を! いくらなんでもアッラーは許してくれる。
信仰のためにやむを得ない時もある。子供たちのために頑張らねばならない時もある。
さて、それがどうなる?衝撃の事件か?
ヤーシーンは女を追う。楽器弾きの女。どやってモノにしよう?
そして何を見てしまった?
こともあろうにアーイーシャの婚礼の夜にしでかしたこととは?
ファフミーのささやかな初恋はどうなる?
いろんなことがいつしか父にばれ、厳しい叱責と罰が待っていた。
その反面、父は優雅に遊び暮らしてる。
これが、紳士たるものの生きる道である。アッラーの思し召だ。
家族の暮らし、街の暮らし、人と人とのつながり、イスラム教のある暮らし。いろいろなものが次々と絡み合って絵模様が織りなされる。
とても面白い。
「チボー家の人々」や「楡家の人々」を読んだ時のようだ。
他愛無い話が、けっこうずしりとしてる。
そして革命前夜のような危うさが街の中に漂う。
旦那の商売、旦那の暮らしが、崩壊しはじめるのか?
遊び友達は的か味方か?
わし的には、前に読んだ「ミダック横町」の方が面白かったけど、アジアの裏町もいいけど、アラブの裏通りもとても面白い。
楽しく読ませていただいた。
わしの勝手なおすすめ度。
星3つ半。