「楊花の歌」
青波 杏著。
1941年廈門から。
1941年は太平洋戦争が始まった年である。
私は上野で生まれた。7歳で広島へ、それから台湾へ渡ってまた広島、そして家が傾き大阪の松島遊廓に売られた。京町楼にスミカありと言われた女。
三善先生と呼ばれる売れない小説家が私を気に入った。居続けしては娘のおせんちゃんが迎えに。
そんなある日、先生が特高に連れていかれた。あらかじめそのことを予期していた先生とは取り決めがあった。手紙とお金をおせんちゃんに渡して廓を抜け出す。あるところにいって合言葉を言えば、私を逃してくれるのだ。
そして上海へ。
迎えてくれたのは楊文理。フランス租界に隠れ住みながら、北四川路、胡蝶ダンスホールの女給、清香として働きながら、ミッションを待つ? それって何?
しかし、突然廈門へ。
スパイ仲間のヤンファ(楊花)とは? ヤンファに惹かれる私。
手の刺青は台湾の少数民族の証か? 数奇な運命を背負う女。
皆殺しの村から生き延びた少女の行く末は?
へびおばさんの刺青が守ってくれるのか?
タケダシズカとは?リーファとは?
戦争の時代。
日本人の台湾や中国への進出、その陰で弄ばれる子供がいる。女がいる。
紅灯の巷で、騙しているようで騙されている。操っているようで操られている。誰が味方で誰が敵か?
愛がある。葛藤がある。猜疑がある。
とても面白い。
廈門って行ったことがある。
コロニアル風の建物が多い素敵な街だ。すぐ向かい側に金門島。連絡船がどんどん出入りしてる。
台湾も目と鼻の先だ。
台湾人に福建人。そして客家の人たち。
何かようわからんけど、普通の中国街とはちょっと違った緊張感を感じたような気がしないでも。
知らんけど。
そしてカタルシスがやってきた。
みんな死んでしまったのか? 懐かしい台湾の町に戻ることはないのか?
とても面白い。
大阪、上海、香港、廈門、基隆、九份、八堵、瑞芳。
舞台は申し分ない。
わくわくがある。
哀しい話がある。
とても面白い。
わしの勝手なおすすめ度。
星4つ半。
「尚、赫々たれ 立花宗茂残照」。
羽鳥 好之著。
西国無双と言われた男。
もはや将軍家も3代目、徳川家光の時代を迎えた。
平和な時代がきた。東の本多忠勝、西の立花宗茂、西国無双と言われた猛将もいまは、秀忠に続き、家光の御伽衆の一人、もはや隠遁の生活の身だ。
そんなある日、家光からお呼びがかかった。あの関ヶ原の戦いは実際はどのようであったのか、知るところと意見を述べよというのだ。
これは、大変。まかり間違ったら命の関わる。しかも、天樹院(千姫)までもが陪席するというのだ。
えらいこっちゃ。
そして話は佳境に入り、極めて微妙な領域に入った。あの時、毛利はなぜ動かなかったか? その時の現場を仕切っていた毛利秀元も交えて話を聞こうということになった。
秀元も剛直無双の勇士だ。まるで果し合いのような具合になるのか?
天樹院がいる意味は何なのか?
家光は何が知りたいのか?
その場で醸し出されたものは何なのか?
その後、平和であるはずの世に波風が立った。徳川忠長の事件だ。
弟の身を案じる天樹院からも依頼があった。宗茂はどう動く?
話は謎解きめいて面白くはある。
しかし、なんだか無理がありそう。
なんとなく尻すぼみ。
わしの勝手なおすすめ度。
星3つ。