河崎秋子、「絞め殺しの樹」。
とても哀しい物語だ。
根室の風は乾いている。
根室の冬はとても厳しい。
ほとんど不毛の地だ。
ある日、一軒の家に連れられて来た少女。新潟の貧村で育つ身寄りのないミサエは親戚のツテを頼ってこの家に養女としてもらわれてきたのだ。
哀しい話はここから始まる。
北の大地、不毛の大地で生き抜くには、誰しも、どんな家庭でも、厳しい労働の日々が待っている。
彼女は、子供になったとは言え、それは、血のつながった家族とは一線を画したある種の奴婢のような存在として買われてきたようなものでもあった。
貧しく、厳しいこの地では、そのようにして、婿を迎える、嫁を迎える、養子を迎えることが当たり前でもあったのだ。
朝から晩まで、畑仕事と家事に追いまくられる日々。そして、運良く学校に行かせてもらえるようになっても、使われっ子の立場と労働は変わらない。
この家を支配するのは吉岡家の老婆だ。この地の最初の屯田兵の家であることだけを誇りに頑固に家と体面を保っている。
彼女はこのまま、使い潰されてしまうのか?
どうやら、出入りの同郷の薬の行商人、小山田が気にかけてくれているようだ。
そして、ある日、ある程度大きくなったミサエはちょっとおかしいと感じることがあった。
どうも義父母たちに札幌の女郎屋に売られようとしているのではないか?
どうしよう? 逃れる術はあるのか?
小山田が助けてくれた。
頑固婆さんの自尊心につけこんだのだ。義父母の目論見は失敗した。
そしてミサエの新しい暮らしが始まった。
札幌の薬問屋で働けることになったのだ。そして学校にも行かせてもらった。保健婦の資格をとった。
自立できる?
果たして、そうか?
小山田に請われて根室に戻る。
そこで結婚、子供ができた。
忙しい日々。そこに暗雲が?
ある日、道子がいなくなった? いったい何があった?
小山田の長男。俊之とは?
菩提樹の樹とは?
絞め殺しの樹とは?
この不毛の地に暮らすかれらにまだまだ試練が続くのか?
ミサエの残したもう一人の子供、雄介の運命は?
だんだん明らかになる驚愕の事実。
巡り巡って雄介は吉岡家にもらわれるという皮肉な運命。
雄介の決意とは?
母が残したものとは?
俊之は彼に???
とても残酷な物語だ。とても哀しい物語だ。
とても重い。
人はどこまで試練に耐えらるのだろう。
一気に読んでしまう。