昔々、家にステレオというものが初めて入ってきた。
知り合いから頂いたものだった。それまでは、レコードプレイヤーに
ラジオを直結するという乱暴なやり方で聴いていたものだ。
その頃、前後してレコードも頂いた。喫茶店でBGM用に使っていたものだそうだ。
その中に、特別古くて痛んだジャケットがあって、なにげなくプレイヤーに
かけたら、すばらしい音楽だったのでびっくりした。
それが多分意識的にジャズを聴いた最初だったと思う。
それから、このレコードが好きになり、何度も何度も聞いたし、だん
だんジャズを好きになって行くきっかけにもなった。
もともとクラシックが好きだった私にとって、この四重奏は聞き易い
音色だったしアドリブもおしゃれで自然で知的に聴こえたものだった。
古いレコードでありながらも私にとって新しい世界の息吹のようなものが感じられたわけだ。
それから何年もたって、大阪にMJQがやってきた。
それで、是非にと思ってコンサートを聴きにいった。
しかし、結果は無残なものだった。
いたずらにクラシックぶった仕草で登場し、紳士然としたスタイルで
演奏はするもののあの明るく自由にかけめぐる軽妙な即興演奏の味わいは
なくなってしまって、MJQといわれる型にはまってしまった音の羅列だけが印象に残った。
その後の暮らしの中で、あの頃家にあったレコードもなくなり、残った
僅かなコレクションの中にこれが1枚だけ、いまだに存在している。
バイブとピアノの珠玉のコラボレーション。思い出の一枚だ。
毎週木曜は、映画、音楽、書画に関する話です。