昨年の末に、「りょうま」という小料理屋が店を閉めた。
といっても不況のあおりで店が潰れたという話ではなくて、二十数年やってきた
この商売を卒業して、田舎に住んで自然と共に暮らすという年来の願いを
果たす為だと聞いたので、実に喜ばしい話なのだ。
この店は、大阪京橋の商店街の片隅にあって、店主も変わっているし、客もことごとく
癖があるといった怪しい店だったけれど、実は好いお客ばかりで好きな店だった。
そこで、最後に飲んだ酒が、吟醸「飛良泉」。
この店では何度か飲んだ事があるが、何時飲んでも味が安定してて変わらない、すばらしい
酒造りだ。爽やかでいてコクガある。キレすぎず、ベタつかない。極上の酒だと言える。
思い起こせば、ずっとこの店で日本酒を教えてもらってきたのだ。
店に座って、出される酒に、「これは○○だからうまい」とか「こっちは△△だからもうひとつや」
とか勝手な事をいっているうちに、私が気に入りそうな酒を出してもらえるようになったのだが、
その間に、そういう酒が何故いいのか、何故気に入らないのか、酒の造り方がどうだとか
蔵元の姿勢がすばらしいとか、いっぱい教えて貰いながら、酒の酔いと共にどこかに消えてしまって
いつまでたっても、出された酒が、「どうだ」、「こうだ」としか言えない始末。
一人前に酒を語れるおっさんにはなれないまま今日まできてしまった。
店主にはおめでとうだが、私には残念だ。
毎週金曜は酒や茶に関する話です。