最近読んだ本、「銀河鉄道の父」、「百年泥」

  • 2018年4月20日
  • 1人

門井慶喜、「銀河鉄道の父」
この本、素晴らしい。とても感動した。
宮沢賢治を描くんではなくてその父を描くことで宮沢賢治の人物像がよけいキリキリと
立ち上がってくるような気がする。
それにしても、宮沢賢治ってやっぱりケッタイで難儀な人やったんやねってよく
わかる。
それに反してお父さんの政次郎はすばらしい。わしら凡人にもとてもわかり易い良い
人だ。
岩手県花巻で代々の古物商兼質屋を営む父は勤勉で真面目、そして商売上手な人だ。
はるばる京都まで仕入れの旅に来た時にちょうど跡継ぎが生まれた。大事に大事に
育てんとあかん。病気したら自ら付き添うくらいだ。賢治は親の愛を受けて順調に
育つ。の、はずが、どうもそうでもない。一生懸命勉強するけどうまくいかんようだ。
家業を継ぐような商才もなさそうやし、根性もなさそう。どうやら妹のトシを相手に
お話を作っているようだ。そのうち、新興の法華経教団に凝って突然上京。
どんどんとんでもない事に・・・・。
なんとなく知ってた宮沢賢治の生涯が東北の田舎の現実の暮らしとして生き生きと
立ち上がってくる。とても良い。これほどの父や家族の愛があればこそあの作品が
できたのだとよくわかる。そして妹の病気。その悲劇を見つめることで出来たモノも
少なくないと思う。
賢治の生き様、死に様が父の姿を通して浮かび上がって、思わず泪がでるときもある。
とても良い本を読んだと思った。

石井遊佳、「百年泥」
パラパラ見てたらインドが舞台みたいなんで読んで見ることに。
舞台はチェンナイみたい。昔のマドラスだ。わしも現役時代に仕事でバンガロールに
行ったことがあって、ここで深夜に乗り換えたこともあったけど、深夜やったんで
街の様子はさっぱりわからんかったけど、紛れもなくインドやなあって感じた事
だけは覚えてる。
ここにあるヒンドゥー・テクノロジーズというIT企業で日本語を教えるために来た
女性がいる。元夫の企みなのか? 借金を返せない弱みに付け込まれたのか?
もっけの幸いなのか? この地で暮らし始めたある日から大量の雨が降り始めて止む気配が
ない。アダイヤール川は水浸し、とうとう洪水になってしまった。
晴れない雨の日はないし、引かない洪水はない。とうとう水が引き始めた。その後に
現れたのは大量の泥の山だ。この泥は何を運んできたのか?
泥の中味はなんなのか?
人々はその中から掘り出すものはなにか?
ずっと前に死んでしまった可愛い我が子か? 諍いあったまま別れてしまった幼馴染か?
綴られなかった手紙を入れた引き出しか? 誰もが思い思いに泥の中からおのれの望むものを
見つけて想いに浸っているようだ。眺められなかった風景、聴かれなかった歌
話されなかった言葉、濡れなかった雨触れられなかった唇。
百年泥の中にあるものは全てだ。
あったかもしれない人生。
実際は生きられることがなかった人生。
あるいはあとから追伸を書き込むための付箋紙。
ちょっと頭の芯がうずいて、ちょっと悲しくて、ちょっとビターで。
ちょっとわからん。
色々、モノ思わせる本である。

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