角幡唯介、「漂流」
この人の、「空白の五マイル」という本を読んだことがある。チベットの山奥深くにツァンポー峡谷
というところがあって各国の探検隊が挑むが後五マイルを残して踏破できていなかった。
そこには幻の瀧があるという。そこに挑む作者自身の冒険談だった。ただの自慢話的な
内容ではなくて、真摯で内省的なところもあるし困難に挑む姿勢も共感できて楽しく
読むことができたんで、早速手にとってみた次第だった。
これはある漁船がグアム島付近で操業中に遭難し、救命筏で乗組員と共に37日間
漂流した後に奇跡的に救助されたという物語から始まる。本村実船長と8人の
フィリピン人船員全員が助かったのはなぜなのか?
これは漂流そのものを追う物語ではなかった。
作者が取材のため本村船長の足跡を追ううちに次々と意外な事実にぶつかった。
足も伸ばせない狭い筏の中で9人もの男が食い物もなく水もなく苦しんでいる、
船長を殺して食おうと言う話まで出たそうな、そんな強烈な体験をして、もうこりごりの
はずなのに本村船長は8年後に又船の乗ったのだそうだ。そして、そのまま忽然と
姿を消してしまったのだそうだ。
一体何が起こったのか?
そこまで彼を駆り立てたのは何なのか?
彼の出身地、宮古島、池間島に飛ぶ。
沖縄の漁師とは、宮古の漁師とは、池間の漁師とは?
南洋漁業の原点に迫る。
ミクロネシアの島々で大散財をしたおした彼らの隆盛はどこに行ったのか?
本土や、東南アジアの漁師たちが押し寄せる海域で彼らがそれなりのポジションを
確保できたのはなぜなのか?
そして漁に出るしか生きられない彼らの性とは何なのか?
丁寧に徹底的に取材を続ける。克明に綴られたルポジュタージュは小説を読むような
牽引力がある。遭難船をただ追いかけるよりははるかに面白い。
フィリピン、台湾、中国、インドネシア、日本等々、南方海上の漁業の厳しさが
過去から現代にかけて立ち上がってくる。
とても面白い。
高橋三千綱、「さすらいの皇帝ペンギン」
こちらの冒険はメチャ、チャラい。面白くてアホくさい。けどまあ、たまには
ゲラゲラ笑いながら本を読むのもええかもしれん。
あるいはこれを軽妙洒脱で感動的と言うのか。
小説家、楠三十朗は突然、南極に行くことになった。テレビ会社の開局記念番組
のドキュメンタリーで高名な作家がレポーターとしていくことになっていたのが
ドタキャンされたので身代わりにオファーされたのだ。そこから、三十郎先生の
ドタバタ旅が始まる。
まず着いたのが南極への基地となるチリのプンタアなレス、実はそこは彼の訳あり
の地でもあった。前にこの地である女性と色恋のドタバタがあったというか、命を
助けられたというか、ややこしい思い出があるのだ。奇しくも彼女の知り合いに
巡り合うことができたと思ったら又もやドタバタがあって、いつのまにか、彼の手には
鳥籠が。その中にはなんと皇帝ペンギンの雛が入っていた。
いったいどないせえと言うんや?
故郷に帰してくれって言うんやろなあ?
故郷って?
結局はコドク(孤独)と名付けた雛ペンギンを連れて南極点を目指すことに。
餌はどうすんねん? どやって飼うねん? どやって運ぶねん?
ドタバタ続きの毎日、三千綱ワールド全開だ。
とても楽しい。面白い。
そしてちょっとビターで、
ちょっと悲しい。
ブログランキングに参加しています。もしよかったらポチンとお願い致します。
にほんブログ村
ありがとうございました。