ポール・セロー、「九龍塘の恋」
香港返還といえば、もう遠い昔のような気がするが、そんなに古い話でもない。
香港から、中国に入ると、深センだ、更に入ると東莞とかいうところがあって、
中国の近代化と共に大発展してきたところだ。そこにある、ある工場の女子寮
で、その頃、春節休みで実家に帰った寮生が戻ってこない。「なんでや?」と
聞いたら、「「香港返還で英国が怒って攻めてくるから戦争になる。
危ないから帰ったらあかん」って親が引き留めている」という話だった。
笑えない笑い話だ。
外国に避難しようとか、事業をひきあげようとかいろんな騒ぎがあった。
親の代から香港に根づいた英国人。
引き継いだ中国人との事業。
迫ってくる大陸の圧力。
さすが「中国鉄道大旅行」の作者だ。
香港の暮らしが目の前に浮かんでくる。
西洋人の目でみた香港、中国と我々東洋人が見る香港、中国って
少しだけ感覚がちがうのかな?
旅の話、異国の話は実に楽しい。
カズオ・イシグロ、「女たちの遠い夏」
カズオ・イシグロのかなり初期の作品だと思う。
泉鏡花の作品を読むような、怪しく危険な物語だ。
イギリスに渡った悦子。子供の景子の自殺で昔の長崎の暮らしを思い考える。
佐知子と万里子という母子がいた。
哀しい母子。
万里子は本当に子殺しの母をみたのか。
子供を抱いて水に漬けている。
佐知子は悦子なのか。
美しい文章で戦前の港町が幻想的に描かれている。
この人の本。やっぱりいいなあ。
毎週火曜は最近夢中で読んだ本の話です。