ミッチ・カリン、「ミスター・ホームズ 名探偵最後の事件」
もうコナン・ドイルが死んで100年近く経つと言うのに、まだシャーロック・
ホームズが登場する小説が書かれている。すごいなあ。いまだに人の意識の中
にしっかり存在してるのだ。
この作品もその一つだ。
90歳を越えたシャーロック・ホームズはもうベーカー街には住んでいなくて、
サセックス(どこらやろ?)の田舎で養蜂農園を営んでいる。そこで、長い探
偵人生の懸案だった執筆活動をしながら養蜂を営み普通に老いていっている。
田舎の家は、家政婦のマンロー夫人とその子どもがいるだけの簡素な暮らしだ。
そんな暮らしでも事件がないわけではない。
ホームズ心をくすぐる話が3つばかり進行中だ。
一つは、ホームズが書き散らしたメモの中にある事件簿を発見したロジャーが
それを盗み見て書きかけのその先がどうなるかという形で進んで行く。
もう一つは、ホームズが何と第二次大戦直後の日本を訪れたという話だ。彼を
招待したウメザキ・タミキと2人は戦後の混乱期の日本を東京から神戸、広島へ
と旅をする。そして、廃墟となった原爆ドームや縮景園を訪れるのだ。
その目的は何か? ホームズを招待した謎とは?
そして最後は、静かなはずの養蜂農園にも何かが起こりそうなのだ。
総てが複雑に絡み合って、解けるなぞもあれば、解けない謎もある。
日本に対する外国人の見方もこういう読み方をすると面白い。
色々と楽しい本だ。
芳川泰久、「謎解き『失われた時を求めて』」
この本は素晴らしいと思う。
プルーストの『失われた時を求めて』は大分前に読んだ事がある。分厚い本
が7冊もあって読むだけでえらい疲れた。しかも内容がずっしりと濃密だ。
あらゆる描写が繊細で細密で濃厚だ。こんなに根気よく丁寧に書けるもんや
と驚いた。しかし、この本を読むと、超大作を読むという行為と達成感だけ
が先行して、実は大事なとこを何も読み取れてなかったんやなあってよく分
かる。そんな浅はかな読み手でも感動できるんやからなんとすごい作品やっ
たんやろかと改めて思った。
・・・・
「長い間、私は宵寝になれてきた。ろうそくを消すとすぐに目はふさがり、
「眠るんだな」と思うまもないことがときおりある。それでいて半時間もす
ると、もう眠らなければならない時間だと、ふと考えて目がさめる。・・・
・・・・『失われた時を求めて』の冒頭の部分。
こんな風な語りが延々と続く。そしていつのまにかその場の情景を語ってい
る私と、その「私」を語っている私と、過去と未来が入り組んでくる。母と
一緒に行ったはずのベニスの旅がいつかしらずに死んだ母を回想するような
風景を語っている。そして風景の切り取りすら作為的なのだ。窓枠の中に現
れる風景は或いは見えるはずのないもの、或いは見てはならないもの。そし
て、麦畑の麦の穂の向こうに見え隠れする3つの塔は、どうしてそう見える
のか。まるでマグリットの世界のようなのだ。
なんと、『失われた時を求めて』がそんな企みに満ちた書かれ方をしていた
のだとは全く気がつかなかった。
改めて読み直すには膨大すぎるけど、興味は津々だ。
できたら時間を作って読み直してみよう。
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ありがとうございました。