すばらしい映画を見た。静謐で心に沁みる映画だ。
美しい老女がいる。
立派な社会人の息子がいて、和服仕立てでは名のある人らしい。何不自由なく
くらしているようではあるが、戦後の苦しい時代を生き抜いてきた、それなり
の過去の思いを背負っているようでもある。
ある日、突然旅に出た。
ある画家の絵が気になっていて、その画家の展覧会がある軽井沢に行ったらし
い。旅の支度もホテルの予約もなしに、ふらりと出かけたかのように。
しかし、彼女には何かの覚悟があるらしい。
何十年も心の秘めた事をいま訪ねあてようとしているのか?
その絵には何が描かれているのか?
その絵は見つかるのか?
軽井沢の画廊の向かいには、昭和を生き抜いてきたような古びた喫茶店がある。
そこの老支配人が入れる珈琲は細かい泡の一粒一粒が香り立つようだ。
ここで二人が交わす会話は、文字にするといかにも持って回った、わざとらし
い言葉のようやけどこの二人が喋るとすっと心に落ちてくる。
うまいなあ。
話は淡々と進む。事件は何も起こらない。
起承転結は極めて緩やかだ。
しかし心惹かれる。
と言われた時の老女の一瞬のためらいの表情。
秘そやかな動揺と嬉しさ。
画家があれを握りしめる時に駆け巡る感情の表現。
あの絵に込めた意味。
すばらしいなあ。
水墨画の世界では、余白がものすごく大事だ。
びっしり画面一杯に書き尽くすような中国水墨画でも、余白の大事さを言われる。
更に日本画や日本の水墨画では、余白がもっともっと重要さをます。
描かずに描くことが名人の名人たるゆえんなのだ。
描かない事が余韻を産み、気品を増す。
言わぬが花、知らぬが仏なのだ。
風姿花伝には、「秘する花を知ること。」とある。
「秘すれば花なり、秘せずば花なるべからず、となり。」と言うことなのだ。
秘すれば驚きも又大きい。
この映画はどんな驚きがあるんでしょうね。
龍が帰ってくるんやろか?
画面がとても美しい。
音楽が又良い。
特にエンディングロールの時の山下洋輔らしいピアノソロは圧巻だ。
是非、劇場でご覧あれ。
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ありがとうございました。