最近夢中で読んだ本の話、辻邦生

  • 2010年4月13日
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辻邦生、「西行花伝」
「丹生都比売神社って書いた方に行ったらええはずやね?」
ちょうどこのあたりは道が新しくなって、記憶にある標識が見当たらない。ぐるぐる回って
やっと見つけた。小さな山を越えて天野山丹生都比売(にゅうつひめ)神社に向かう。
このあたり今では世界遺産の地だからかハイキングを兼ねた観光客が多い。
大分以前の記憶だが、このあたりに西行の暮らした庵の跡があるはずだ。
最近西行に少し興味を抱いて、辻邦生の、「西行花伝」を読んだ。
前に、辻邦生の本阿弥光悦や尾形光琳、角倉了依の事を描いた「嵯峨野明月記」や
ボッティチェルリの事を描いた「春の戴冠」を読んで、人物像を浮かび上がらせるやり方が
すごいなと思っていたので、この本を読む事にしたのだ。
先のベトナムの旅の列車の中でずっとこの本を読んでいた。
おかげで長い長い列車の旅も退屈しないですんだし、本も読みきれた。

紀州、田中荘に生まれた佐藤義清という男が、北面の武士としておのれの居所を作り上げよう
としながらも、次第に世の中の矛盾と不条理に思い到り、歌の道に入る。
或いはそれは、道ならぬ恋に思いを焼き尽くした結果なのかもしれない。
「この世の花は虚妄の花」と思い窮め、虚空を生き切る。
それが真実の歌の世界であって、
「歌詠みが花と言い、月と言うとき、それは真如の花であり、真如の月」となるのだ。

弓張の 月に外れて 見し影の やさしかりしは いつか忘れん
捨てしをりの 心をさらに 改めて 見る世の人に 別れ果てなん
花に染む 心のいかで 残りけん 捨て果ててきと 思ふわが身に

天野の里は、山桜がまだ美しく咲き残る峠をおりていくと、「ホーホケキョ」と鶯の
鳴き声が聞こえた。
山裾に小さな村があり、菜の花やレンゲが咲いている。
畑はもうすぐ田植えの時期がくる。今はその準備だ。
長閑な風景が広がっている。

願はくば 花のしたにて 春死なん そのきさらぎの 望月の頃

hon100413

他の地の西行の庵も訪ねてみたいものだ。
毎週火曜は最近夢中で読んだ本の話です。