金薫、「孤将」(蓮池薫 訳)
すばらしい本だ。
豊臣秀吉の命で加藤清正や小西行長が朝鮮半島に遠征した文禄・慶長の役の話
は歴史で習って知ってるけど、それは無謀な企みで、見事に失敗して負けて帰
って来たということだけが印象に残っている。その時朝鮮側で活躍したのが李舜臣
と言う武将という名前くらいは知っていた。
その李舜臣の話を韓国の作家が書いたのがこの本なのだ。
しかも、伝説の英雄が、にっくき外敵の日本軍をさんざんにやっつけたという
単純なヒーロー話ではない。
無能な国王の時代であった。
軍隊も十分ではないし、武器や船も足りない。
昔からの習い、困ったときの明国頼み、しかし、応援にはくるけど饗応を要求
するばっかりで戦わない。
こうなると敵は日本軍だけではないのだ。
そういう困難の中で孤軍奮闘する李舜臣の物語なのだ。
朝鮮側では壬辰倭乱と言う。
最後の決戦かと思われた頃、日本では豊臣秀吉が死んであっさり撤退を始めた。
王様も明国軍もそれでOKだ。しかし、こんだけ卑劣に侵略してあっさり帰ら
せるわけにはいかん。それはないやろと李舜臣の最後の戦いが始まる。
日本人にとっては耳が痛いところがあるが、読み応えのある小説だと思う。
特に蓮池薫さんの翻訳がすばらしい。
バランスのとれた人間性が覗えるような翻訳文なのではないだろうか。
大江健三郎、「晩年様式集」
この人の本は相変わらず難しい。
最近読んでなかったけど、晩年なんちゃらという文字に惹かれて読み始めた。
歳をとるって、若いころは一つずつ増えていくんやけど、ある年齢をすぎると
例えば80歳を一区切りと考えたらそこまであと何年て数えるという考え方も
あるという。わしの年齢になるとそれはわからんではないなあ。
長江は3.11の日の揺れの中に、崩れ落ちる書棚の本に衝撃をうけながら、
原発社会の恐ろしい未来を予感したのだろうか。
物語の舞台は東京と四国の森の端にあるいつもの村とを行き来しながら始まる。
長江には障害のある子供、アカリがいて、放射能の降り注ぐ未来に対して警戒心
を研ぎ澄ましている。
長江の妹アサと妻、千樫とアカリの妹真木は「三人の女たち」同盟を結成し、
いままで長江の小説のねたにされ続けてきたことに異議を申し立てて独自の
見解を表明する。不可思議な死をとげたギーの子供ギー・ジュニアも帰国して
森の中の暮らしが始まる。
大江健三郎ワールドだ。
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