龍應台、「台湾海峡1949」
これはすごい本だ。こんだけ分厚いと、面白くなかったら途中でやめようと思い
ながら読み始めたが一気に読んでしまった。
前に、「巨流河」と言う本を読んで感動したことがあるが、この本も同じような
テーマと言えるかもしれない。日中戦争の時代、国民党と共産党の内戦の時代、
そのような時代に翻弄され、非道で理不尽な目にあわされた人々、特に台湾に関
わる人々の記憶が歴史の中に埋もれて消えてしまうことのないように描きとどめ
た本のようだ。
描かれた事実の重さにうちひしがれ、文章のすばらしさに惹きつけられて又、読
み進めると言う具合だ。
物語は浙江省淳安の近くから始まる。
この春、私が暮らした杭州からそれほど遠くない。そういえば千島湖というのが
あった。実はその湖は人造湖で、その湖底に沈んでしまった新安江と言う、あの
有名な「清明上河図」にも登場するらしい古い文化の香りがする田舎の町にいた
ある女性、彼女は作者の母親でもあるのだが、その人の生き様から話が始まるの
だ。
そこから始まった物語の糸が次々に様々な人の人生に絡んでいく、その糸を辿り
ながら、次々に人が探り当てられ、隠れていた物語が引き出されていく。
あまりにも悲惨であるが避けてはいけないし、忘れさってはいけないのだ。
:文中の終わりの方から引用する。
・・・・
つけは多すぎて払いきれず、恩は多すぎて返しようもなく、傷は多すぎて塞がる
ことはなく、失ったものは多すぎてどう埋め合わせても追いつかない・・・。
理不尽な仕打ちはただただ多すぎて、それでも六十年間、一言の謝罪の声も聞こ
えない。どの戦場にいようが、どの国家に属そうが、誰に尽くそうが誰を裏切ろ
うが、ましてや勝者だろうが敗者だろうが、正義と不正義をどう線引きしようが、
どれもこれも私には関係ない。すべての、時代に踏みにじられ、汚され、傷つけ
られた人たちを、私の兄弟、姉妹と呼ぶことは、何一つ間違ってないんじゃない
かしら?
・・・・
董啓章、「地図集」
ぱらぱらと見て、香港の街のいろんな場所にちなんだエッセイのような物語なん
やろと思いつつ読み始めた。ところが、どの場所も実際には存在しないのだ。と
ころがそう呼ばれる場所が、どんな歴史でどんな由来でなにを抱えてとあたかも
本当にあるかのように物語られていくのだ。その徹底さがおもしろい。
たくらみに満ちた本だ。
短編集で、他の文も全て空想とたくらみと作為に満ちた内容で、有り得るような、
有り得ないような不可思議な世界を見せてくれる本だ。
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ありがとうございました。