足音跫然（そくおんきょうぜん）。
その時は、まだ魔物の足音がひそひそと近づいているとは露知らず、ご機嫌で中国旅行の計画を立てていた。
出発までにまだまだ時間がある。楽しい計画、ゆっくり調べて。
ある日、郵便が来た。役場の定期健康診断の結果のやつだ。いつもとちょっと違う。
胃の検査で少しおかしいところがあるんで精密検査をするようにと書いてある。
ビクッ、体は絶好調、なんでもパクパク食べるし、酒も飲む。
そんなはずはない、何かの間違いやろと軽く考えてた。
まあともかく胃カメラ検査受けてみよう。予約が満員。2ヶ月先にやっととれた。
足音はヒソヒソ。気がつかん。
その日が来た。
組織採ったんで検査せんと確定できへんけど、これはガンですなあ、
まさか？ わしには何の前兆も自覚症状もない。
なんだかすんなり受け止められへん。心うろたえるばかりの１週間ちょい。
やっぱり、アウト。
で、こんどは手術のできる専門病院へ。だんだん覚悟が固まってきた。
しゃあないもんね。
魔物の足音高し。
ステージ２、内視鏡では無理やから腹腔鏡手術。1ヶ月後の予約完了。
残念ながら、当然ながら、中国旅行はキャンセル。
まだ、コロナ直前の話。
なんで、こうなったんやろ？ 食生活？ メタボ暮らし？
わかりませんなあ。
とうとうその日が来た。がんばって。
がんばろうと思うけど、何をどう頑張ったらええんやろ？
気がついたら、手術が終わってベッドの上。
胃の2／3を切り取ったらしい。手術は無事終わってた。
痛い。背中が痛い。我慢できへんことはないけど、かなり痛い。頑張ろう。頑張れる。
体には管がいっぱい。点滴に痛み止め。おしっこも。
身動きできへんやんか。
それも1日、2日で解消。
だんだんと魔物の足音が遠ざかる。
点滴がとれ、流動食が始まった。
ゆっくりと日常が近づく。
検査が終わって、転移もない。他にガンは見つからへん。
後は、経過観察しながら行きましょう。
抗がん剤治療は必要ない。
てなことで一旦一段落。
気をつけててもつけなくても、突然やってくるモノがある。
しかも只事ではない。
困ったもんですなあ。
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