以卵投石（いらんとうせき）
歳をとると、いままで普通にできてたことができなくなって愕然とすることがある。
たとえば、ある時、友人たちと旅をしていた。
田舎の安ホテル。民宿的な。つまり、エレベータも何もないようなとこだった。
たまたま、インバウンドの団体さんと一緒になった。
陽気な人たちで晩御飯のときもずっと盛り上がってはる。廊下ですれ違ってもきちんと挨拶してくれる。気持ちが良い。
出発の朝。
廊下や玄関はとても賑わってる。わしらもちょい後で出発だ。
朝飯のために２階から１階に降りる。見てたら、女性の外人さんが巨大なスーツケースを降ろそうとしてはる。もちろんエレベータはない。えらい難儀してはる。
わしより若いかもしれんけど見た目ご高齢だ。
つい、「手伝いましょう」と声をかけてしまった。
すぐに何と無謀なことをしたのかと後悔した。
とにかく重い。めっちゃ巨大なスーツケースだった。ずっしり、キチキチに荷物が入っている。紐やテープがかかってるわけではないんで、取手を持つしかない。
渾身の力を込めて、ジリジリと下ろす。
頼んだ方も心配そうだ。わしは、今となっては引くにひけん。とにかく下ろすしかない。
ちょびっとずつ、頑張って、やっと任務完了。
「ありがとう」の一言が嬉しい。
そういえば、ずっと昔、まだ若い頃。
仲間が集まって、テニスの練習をしてた。
片付けの時間になって、センターのネットをおろした。
おろしたやつを飛び越せるかとうバカな話になって、友人の一人が、ひょいと。
簡単にいけるつもりが、引っかかってこけた。
皆で大笑い。
しかし、笑い事ではない。誰にもこれがやって来る。
目の前にバスが来るのに、乗れんかったり。
椅子を脚立代わりにしてたら転げ落ちたり。
気が付かずに、気が付けずに、卵を石にぶつけるようなことをしてしまう。
いつか知らずに老いぼれに。
いやはや。
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