「掏摸」
中村文則著。
世界は理不尽に溢れてる。
この人の本はとてもドラマチックだ。読み出したらやめられん。
どんどんと引っ張られる。
まるで映画を見てるようだ。ハラハラドキドキ。
展開が早い。
次に何が起こる・・・
そういえば、はるか昔、「スリ」とか「刑事」とか名画がありましたなあ。
音楽もよかったけど。
彼は天才スリ師。
本の帯に、
ある日、彼は「最悪」の男と再会する。男の名は木崎――かつて一度だけ、仕事をともにした闇社会に生きる男。
「これから三つの仕事をこなせ。失敗すれば、お前が死ぬ。逃げれば、あの子供が死ぬ……」
運命とはなにか。他人の人生を支配するとはどういうことなのか。そして、社会から外れた人々の想い、その切なる祈りとは――。
彼が、命じられた3つの仕事とは?
それは、それをやれば何が起こるのか? 誰が利益を得るのか?
彼の技が炸裂するのか?
そして、あの子はどうなる?
ケチな万引きから腕を上げて立派なスリに・・・?
あの女は?
「・・・他人の人生を、机の上で規定していく。他人の上にそうやって君臨することは、神に似てると思わんか。・・・・」
恐ろしい。
そして何が起こる?
恐ろしい。
とても面白い。
わしの勝手なおすすめ度。
星4つ半。
「呼び出し」
ヘルタ・ミュラー著。
私は呼び出しを受けている。木曜日の10時きっかりに。
わしにとっては、めっちゃ難しい本。
わしにとっては、「ユリシーズ」や「フィネガンズウェイク」より難しい?
舞台はルーマニア。ナチスやチャウシェスク、秘密警察や強制収容所があった時代。
「・・私の呼ばれる回数はだんだんと増す。火曜日の10時きっかりに、土曜日の10時きっかりに、水曜日もしくは月曜日に。まるで数年が1週間のように思えるけど、そうだとすると、晩夏が過ぎてまたしてもすぐに冬になるのって確かに変。・・」
路面電車の方へと向かう道では、またしても白い実をつけた茂みが生垣中にぶら下がっている。
私は路面電車に乗る。そうらしい?
乗客を見る? 風景を見る? 次々と想念がわいてくる。
あるいは思い出す。
祖父の話? 元夫の話?
パウルとは?
アルプ少佐とは?
リリーとは?
アルプが今日、私を事務所の下にある独房に連れていくかもしれないという不安がどれほどのものかを、パウルは感づいていなかった。
シュナップスはカルパチア山脈と乾燥した平地との間にある丘陵地で育つ。
ズブロッカ。甘苦い、ズブロッカ草の入った黄色のウォッカだ。
パウルが知ってるのは、呼び出しを受けている時の私がいつも緑のブラウスを着て、クルミを食べているのが見られているという事実。ブラウスはリリーの形見、だけど彼女の名前は私の形見。いまだ成長し続けているブラウスだ。
麦わら帽子の老人は降りるちょっと前に潤んだ目を私から離した。
車掌が戻ってくる。キプフェルを食べており、急ぐ様子はない。
夏に私が一番好きだったことは、パン工場の守衛の息子と、並木道の向こうにある外れた道で遊ぶことだ。
私は尋問から3日経った日に再び工場にいた。うんともすんとも訪ねなかったネル。私が思っていたよりもずっとやりてだった。
どうしてそうなるのメモはイタリアに行ってないわ。
もし自分を愛していないのなら、踊りは路面電車の混雑より煩わしい、と私は義父に言っていた。
私の前には、まだ降りようとしていた人たちがおり、後ろでは誰もが黙っている。車掌は言う。遠くはないぞ、次の停留所では全員を降ろしてやるよ。遠くないと車掌は言うが、私は急いで戻らなければならない。次の停留所では九時四十五分だ。
わしのような物知らずの、爺さんには中々入って行きがたい世界がある。
難しい。