「紙の梟」。
貫井徳郎作
どんな話。
これは人ひとり殺したら 死刑になる世界の物語である。
というサブタイトル的な言葉がつくような世界を描いた短編集である。
いまのわしらの世界とは違うんやと思いつつ読むものの、なぜか、今ある世界のような気がしてしまう。
おんなじような、理不尽、不条理がいっぱいある。
・見ざる、書かざる、言わざる。
有名デザイン会社の社長。野明慎也が突然襲われた。両眼えぐられ、舌切られ、指を全部切られた。
なんという残酷な犯罪。しかし、命に別状はない。だから、犯人は死刑にならない。
何という理不尽。
誰が、何のために? 被害者は見えない、書けない、言えない。どうやって、手がかりを得ればいいのか?
どうやって犯人に辿り着けばいいのか?
・籠の中の鳥たち
大学の写真同好会の連中合宿を計画した。個性的なメンバーで盛り上がってる。
メンバーの父親の別荘だから、気楽なものだ。
ところが、女性メンバーが見知らぬ男に襲われた。助けようとした男のメンバーが石で殴る、死ぬ。
さて、どうしよう。殆ど正当防衛ではないか?
しかし、殺人は殺人、死刑になる。
しょうがない、皆で隠蔽しよう。
辻褄をあわせよう。
さて、どうなる。? うまくいくのか?
次の殺人事件が? 意外な展開に?
巧妙な?
・レミングの群れ
いじめっ子が自殺、マスコミで大問題。
いじめっ子さがし、あぶりだし、殺してやろう。
死刑になるけど英雄になれる。自殺願望者がたくさんいる。
いじめた側の関係はネットでいくらでも炙り出される。
そして、殺される。
どうせ、死にたいなら代わりに殺してやろうか? そしておまえが犯人として死刑になる。
英雄として死ねるではないか。
ネット社会の恐怖。
・紙の梟
笠間耕介、作曲家、慎也まで作曲に没頭、もうすぐいい曲ができそう、その時、突然、電話。
恋人とはいえど、今が大事だ。
しかし、二度目の電話は刑事からだった。恋人の松本紗弥が殺された。
そして、しばらくして、容疑者が逮捕された。その父と彼女の金銭上のトラブルを問題視。
なぜ?
そして、被害者の秘密が明らかに。
というか、秘密だらけの人生が垣間見えた。
なぜ?
笠間は秘密を辿り始める。
どこまで行き着けるか。どれほどの闇があったのか?
壮絶な人生?
ネットの炎上? 書き込みをたどる?
読んでみて。
罪と罰とは。被害者と加害者。短編とは言え、いろいろと考えさせられる。
今のネット社会はある意味とても恐ろしい。ネットで炎上って言うても、ネットを使わない人、興味ない人には何の関係もなさそうやけど、ネットで攻撃されて、悪意を持って名前も住所も家族も、生活実態も全てさらされてしまったらどうなってしまうんやろ?
どこでも誰にでもあるかもしれない話。こわい世の中だ。
人を一人殺したら死刑。こんなわかりやすい話がとても恐ろしい。
わしの勝手なおすすめ度。
星4つ。
草木鳥鳥文様。
梨木香歩作。
四季の野鳥と植物をめぐる随筆集。
作家が綴った鳥と草木にまつわるエッセイの意を表す絵を、画家、ユカワアツコが古い抽斗の中に描く。その抽斗を写真家、長島有里枝が風景の中で撮影する。
なんとも凝った企画に興味が湧いて読んでみた。
実に36もの組み合わせ。
これはほんの一部。
冬の林の中で・・・・・・・・・・・ツグミ/シバ属
いったいどこへ?そして今何を?・・コゲラ/シラカンバ
桜が終わると・・・・・・・・・・・オオルリ/ヤマフジ
親もあんなふうにぼうっとして・・・キビタキ/カラマツ
虚無僧のように現れる・・・・・・・ゴイサギ/葦
蓮の国で目を覚ますのだ・・・・・・バン/蓮
水上で恋をして・・・・・・・・・・カイツブリ/コウホネ
都会が苦手な内弁慶・・・・・・・・コガラ/ウラジロモミ
今もベールの彼方に・・・・・・・・ビンズイ/サラサドウダン
初夏の始まりの知らせ・・・・・・・アオバズク/ケヤキ
DNAに反旗を翻して・・・・・・・・ホトトギス/エノキ
ファンタジーの迷路が・・・・・・・サンコウチョウ/コウヤマキ
静謐な文章と絵と写真がよくマッチして良い感じだ。
鳥も草木もさっぱり知識がないわしには、その風情に違いやニュアンスの意味するところが従分に理解できてるはずもなく、なるほど、ええ絵やなあ、ええ写真やなあ、なんてつぶやくのが精一杯。
おしゃれな良い感じの本でした。
わしの勝手なおすすめ度。
星3つ。