最近読んだ本、「破船」、「ペッパーズゴースト」。

  • 2022年8月9日
  • 13人

吉村昭、「破船」。

本文から。
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村は、海に鋭くせり出した岬の断崖で南を閉ざされ、わずかに北への
峠越しの路で他の村落へ通じている。それは、岩場つたいの険阻な路で、
深い谷を二つも渉り、蔓のからみ合う樹林の中の急斜面をのぼって
ようやく峠にたどりつく。そうした地勢が、村を孤立したものにさせていた。
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田や畑はない。故に作物は手に入らない。浜で塩を焼いて売る。
イカを獲る。スルメを干して売る。
サンマをとる。
僅かな暖かい時期に蓄えた僅かな食物で厳しい冬を耐える。
病気になっても医者はいないし、買う薬もないし、買う金もない。
それで亡くなったら口減らし?
家族が飢えるのを防ぐには誰かが身を売るしかないというのがこの村の
あたりまえなのだ。
峠を越えた隣村には、塩買の商人がいて、その斡旋をしてくれる。
なんという貧しさ。なんという理不尽。
しかし、それでも密かに村人たちが待っている。奇跡がある。
その奇跡を呼ぶために。嵐の夜、浜辺で塩焼きの火を焚き上げるのだ。
村の沖合は、大きな荷を積んだ商人たちの船が往来している。
ある日、ある時、ある嵐の夜に、一艘の船が、浜の火を見て集落があると
勘違いして、浜を目指した。そして、その入江にある岩場で座礁してしまったのだ。
それは、村人たちに多大なる財と福をもたらした。
備蓄してちまちまと食いつなげば数年は飢えないですむかもしれない。
衣服や、薬、酒やそのほか、役に立つもの、売り捌けるものがいくらでもある。
注意深く。
米、繰綿、種油、蝋、茶、酒、醤油、酢、畳表 323俵。
では、乗組員はどうなる?
他の村に知られては決してならない。
お上に知られては決してならない。
子々孫々秘密を貫かなければならない。
これが村の掟だ。
長く続く飢えの期間。果たしてお船様はやってくるのか?
もしそれがお上の船だったら? 村には掟がある。
お船様がもたらすものは、福とか富だけなのか?
何かとんでもないことが起こらないのか?
そして、ある日・・・
文庫本、薄い一冊。
とても読み応えがある。吉村昭の描き出す世界に息を呑む。
なんと悲しい。

伊坂幸太郎、「ペッパーズ・ゴースト」。

この作家、とても好きだ。
いつも意表をつかれる。荒唐無稽のようで説得力がある。
勧善懲悪、ええもんとわるもん、はっきりしててわかりやすい。
のに、ハラハラドキドキ、引き込まれる。
スピードが速い。
とても速い。
思考が追いつくか。
想像力が追いつくか。
ウソかマコトか。
夢か現実か。
ある日、侵入者があった。
「90年代にアフリカ、ルワンダで起きた虐殺」を知ってるか?
「隣人を殺せ」とラジオで繰り返し放送したことがいつのまにか国中に広がって
あの悲惨な事件が起きたのだ。
お前たちが「猫ゴロシ」、猫を地獄に送る会としてSNSで
やったことと同じじゃないか?
だから、われらが、それに関わったやつらをネコジゴハンターとしてやっつけて
いくのだ。ネコたちが味わったのと同じ目にあわせるのだ。
ナチハンターのように。資金はいくらでもある。
それがロシアンブルーとアメショー。
それって、現実のこと? 誰かの小説の中の世界?
壇先生には秘密がある。父から受け継いだ秘密だ。
誰かの未来が見える。父はそれを「先行上映」と言った。
それは本当の事?
事実生徒の身に起きたことは?
そして、その後、不思議な事件が?
生徒の父、里見八賢とは何者?
彼も捕らえられた? そして壇先生に起きる事は?
犯人たちは何者?
ロシアンブルーとアメショーって実在するの?
我々は物語の人物なのか? 起きてることは筋書き通りなのか?
現実なのか?
ツァラトゥストラが語った事? 人生は果てしない繰り返し?
やっと乗り越えても変わらない? ならば、生きることに何の意味が?
どうにもならないことはどうにもならない?
とても面白い。

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ありがとうございました。