堂場 瞬一、「夏の雷音」
昔、むかし、そう若くはないけど爺さんにもなってない頃、ある居酒屋によく
行っていた。大体、1つ気に入った居酒屋が出来ると他にはあんまり行かんも
のだ。いつの間にか常連さんみたいになっていた。ある日、その店に行くと、
ちょっとかっこよさげな、所謂ちょい悪爺さんみたいな人がいた。
白髪交じりの髪を長く伸ばして後ろでくくっている。それに髭を生やして、
いかにも芸術家っていう見かけ作りがわざとらしくていややなあって思ってた。
ママさんの昔からの知り合いらしく、その場を完全に仕切ってえらそうにして
はったけど、悔しいながら魅力はあって、若い女性も口説かれて悪い気はして
ないようで、それも悔しかった。
そのうち、ジミヘンドリックスの話になって、「わし、知ってるわ、好きやで」
って軽く言うたら、「きっ」とこっちを向いて、「ほんなら、何か1つ彼の曲の
名前を言うてみろ」って言う。きついなあ。言われてオタオタする。考えてみれば、
彼の言う通り名前を知ってるだけで曲なんか知らへん。ロックといえば他の
ミュージシャンやったら知ってる名前も曲もあるにはあるが、言い返すことも
できずに黙ってしまった。大人げない人やと思たけど、演劇をやりながらロック
系の音楽活動もやってるらしく、何か踏み越えて欲しくないところを触ってし
もたんかもしれん。
それでよう考えてみたら、わしはジャズやロックが好きって言うてるけど、へら
へらと学生時代を過ごしたあとへらへらと社会人をやってただけで、その時代
時代に熱狂した音楽にはまっていたわけではない。殆どが熱気が醒めたあとに
残ったものを落ち穂ひろいで知識の中に拾っていただけのようなきがする。
でも、まあ、それはそれで何が悪いんやねんとは思ってる。
で、わしもその爺さんの歳かそれ以上になってしまった。
もっとかっこええ生き様をしてみたいけど、そうはいかんようだ。
そんな事はどうでもええことでこの本の話をしよう。
吾妻は大学で法律を教えている。ある日、「キッチン南海」でカツカレーを食
っていると神保町で楽器屋をやっている後輩の安田がいきなり現れた。
顔色が悪い。えらいことが起きたらしい。
一億円以上で落札した幻のギター、「ギブソン58」が盗られたと言うのだ。
世界に一本しかなくて、伝説のギタリストも使ったことがあるという。そやか
らそんなに高いのだという。
頼まれて調べているうちに吾妻はだんだん事件に巻き込まれていく。
盗難事件がいつしか殺人事件に・・・・
「58」はいったい何処にあるのか?
金を出したのは誰か? 背後に誰かいるのか?
ミステリーとしても、とても面白いし、ビンテージギターの世界の有り様も、
浮かび上がってきてとても良い。往年の伝説のギタリストの世界も垣間見える
ようでもある。
とても楽しい本だ。
パトリック シャモワゾー、「素晴らしきソリボ」
ある日、突然、男が木の下で死体となって発見された。ソリボ・マニフィーク
と言う名前らしい。何で死んだ?
喉を引き裂かれたらしい。しかも言葉によって?
そりぼって誰? 知らぬ人とていない語り部だ。どんなところにも顔をだして
言葉の力でまとめていく。
警察が来た。死体を調べる。
喉が切り裂かれている。ナイフか? 凶器はどこだ?
片っ端から容疑者が引っ張られる。
しかし尋問すればするほど筋道がたたない。言葉の調書がつくれないのだ。
切り裂かれているのに外傷がないと分かった。
それなら毒殺か。毒を盛ったのは誰だ。何の毒だ。
誰であり得る? 何の毒であり得る。
言葉の調書は役にたたない。何の毒でもあり得ない。誰も毒を盛ってない。
ではどうして?
調書の間々に浮かび上がっている熱帯の人々の暮らしぶりが浮かび上がってくる。
権力と理不尽とええかげんさと酒とごった煮カオスの世界。
それはとても面白い。
でも本としてはわしには良くわからんかった。
理解が浅いんやろね。
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ありがとうございました。