フランツ=オリヴィエ・ジズベール、「105歳の料理人ローズの愛と笑いと復讐」
パリの裏町の夜の暗い通りを婆さんがトボトボ歩いてる。そこに突然、若いチンピラ
ヤクザのような男が現れた。「やい、婆さん、おとなしく金をだせ」と言う間
もなく、婆さんの手にはピストルが。「おまえがこうするのはお見通しだ。お
前こそ有り金全部おいていけ。さもなきゃ撃ち殺すぞ。」とローズ婆さんに脅
された男はしぶしぶ全財産をおいて逃げ出す。
ローズ婆さんは実は105歳の現役料理人で、オーナーで、人生の辛酸をなめ尽く
したどころではない、波瀾万丈の経歴と過ごして来た修羅場の数々を考えたら、
こんなチンピラなんか吹っ飛んでしまってもおかしくないのだ。
ローズはアルメニアに生まれた。田舎の村で両親と幸せに暮らしていた子ども
の頃、突然国は徹底的な侵略を受けた。父も母も家族も皆殺された。どうしよ
う逃げなければ、田圃の肥溜めの中に隠れ続けてやっと死を免れる。しかし、
結局は捕まってトルコに連れて行かれる。そこでは女の子は哀しい運命を辿ら
なければならない性の奴隷だ。そして、又他所に売られそうになる。
さて彼女の運命はどうなる。
この境遇からどうして抜け出すのか?
どういうところをどういう風に流れ流れてパリに行き着いたのか?
唯々運命に身を任せていただけなのか?
彼女の心に疼く復讐の欲望は何なのか?
このしたたかな、波乱多き、恋多き、ばあさんの生き様を辿るものがたりは
わくわくドキドキで手に汗を握る。痛快でもある。はらはらでもある。
とても面白い。
呉明益、「歩道橋の魔術師」
1979年、台北。大都会の片隅に小さな商場、日本で言う商店街があった。殆ど
の人達がそこで店舗兼住居の暮らしをしている。それも共同トイレ、共同シャワー
のような貧しいくらしだ。子ども達は路上をあちこちと遊び場にしているのだ。
時には、親に言われて歩道橋の袂で物売りをしなければいけないこともある。
そんな暮らしのある日の夕方、歩道橋に魔術師がいた。
客がいようといまいと不思議なマジックをやって見せている。
ボクはそれに釘付けになってしまった。
なんて不思議なんやろ。次から次への魔法のように現れ、変わって見せる。
そして、最後にこれを買えば君もこんな魔法ができるようになると1つの小さ
な箱を取り出す。ボクはそれを買いたくて仕方がない。
子どもの頃を思い出すと、こんな事があったような気がしてならない。誰しも
が一度は買いたい、或いは買ってしまった魔法の小箱があるのだ。
そしてその小箱は君に何を見せてくれたか?
少年のはかない恋はどうなったのか?
友情はどうなったのか?
あの街、商店街の人びとはどこにいってしまったのか?
過ぎてしまった裏町のノスタルジックな風景を見事に立ち上がらせている。
湿った、うらぶれた、そしてシュールな物語が霧の中に消えて行く。
そして、ミニチュアの街に再びよみがえるか?
水墨画の中に迷い込んだような世界。とても夢幻で面白い。
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ありがとうございました。