佐藤愛子、「スニヨンの一生」
この本、すごく感動した。素晴らしい内容だ。
中村輝夫と言う旧日本兵がフィリピンの島のジャングルの中に30年ほども潜伏
していてやっと発見された。台湾の原住少数民族から応募した兵隊で、本名を
スニヨンと言う。前に「セデック・パレ」の映画でも見たように台湾の原住少
数民族は戦いに物凄く強い。それにジャングルの中でサバイバル生活を送るの
に非常な適応性を発揮する。そういう逞しい人たちだ。戦況が思わしくない日
本軍は彼らの力を借りようと義勇兵を募集する。それに応じて戦地に行き、凄
まじいサバイバル生活の中で終戦を迎えた事も知らず時が経った。
横井さんや小野田さんと違うのは、彼が台湾籍だった事だ。だから発見されて
も日本に帰れない。しかも、愛する妻は夫の死を告知され、再婚していた。
これは彼と彼の周りに居た人たちへの膨大な聞き書きを記したドキュメンタリー
だ。自分自身の想い、心の中の叫びをどう言い表すのか。理不尽さとどう向き
合って心の中に落とし込んでいくか。そういうことに言葉を使って表現する習
慣を持たない人たちをどう理解するのか。簡単に結論付けて小説なんかにして
しまえば浅薄なものになりかねない。こうして関係者の聞き書きの中から浮か
び上がってくるものを微かに想像するしかないようなのだ。
戦争の理不尽。少数民族の問題。日本と台湾。台湾と中国。中国と日本。それ
ぞれの国家間の思惑。そんなこんなを改めて考えさせられた。
ハリー・マシューズ、「シガレット」
実験的文学者集団「ウリポ」に所属する著者がそういう手法で書き上げた本だ
と言うことだ。それが何なんか、それで何がどうすごいのかなんて難しい事は
ようわからん。しかし確かに面白い。作為に満ちた面白さがある。
各章は短編の寄せ集めのようで相互に絡み合っている。それぞれに中心人物が
二人ずつ登場して、ある時は夫婦であったり、兄弟であったり、ビジネスパー
トナーであったり、憎みあっているもの同士だったり、同性愛の相手だったり
様々だ。そしてそれぞれが引き起こすあるいは巻き込まれる出来事は人によっ
様々に違って見える。そういうことどもが万華鏡のように広がったり縮んだり
耀いたり翳ったり、くるくるまわって、お互いが繋がっていって、また元に戻
る。そういう面白い本なのだ。
ただまあ、それはそれだけの事なんやけどね。
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ありがとうございました。