ティエンムー寺、修行の場
舟を降りると丁度川が大きく右に曲がっているところだった。真っ直ぐな川を見ている
より、曲がりながら風景が変わって行くところをみるほうが良い。どんどん歩いて通り
すぎてしまうにはもったいない景色だ。ゆっくり眺めながら歩こう。
しかし、この辺りで夕陽が来てほしかったなあ。
川からずっと見えていた仏塔が正面にある。6層というか一番下の建物を入れると7層
の塔になる。中国でよく見る、屋根の幅も高さも狭い、8角であるが、ほぼ真っ直ぐな
棒状に見える塔だ。
正面からこの塔に向かって一気に階段をあがるとティエンムー寺の入り口だ。
フエの街で気がついた事がある。それは僧が多いなということだ。
あのバイクの群れの中にも、僧が混ざっている。時には自転車に乗って、尼さんが
やってくる。歩いている僧もいる。信仰深い町なのかもしれない。
ここは、その総本山なのかもしれないが、観光というよりは修行の地だ。
門を入ると中央に石畳の道があって、左右に建物があるが、寺院というよりは、学校
か道場という感じを受ける。寄宿舎のようなところがあって多くの僧が寝泊まりしている
ようだ。少年少女も沢山いる。彼らも、一様に頭を剃っているが、昔のわらべのように
頭にひと房髪を残している。男の児と女の児では髪の残し方が違うようだ。
厨房では担当の僧達が食事の準備をしている。
ところどころにある藁ぶきの東屋では、写経する僧がいた。
静謐は生活がここにあるようだ。
しかし、貧しさゆえに幼くしてここに預けられる子供も多いと聞く。
ベトナム戦争当時、政府の仏教弾圧に抗議して、サイゴンまで行き、自らの体にガソリンを
かけて焼身自殺した僧がいるという。
いまでもその時乗っていた車が記念に展示されていた。
そういえばその話は若いころの記憶にある。強烈ともいえる信仰は、時としてこういう静謐の
中から生み出されるのだろうか。
緑がやさしい庭園であった。