「虚傳集」。
奥泉光 著
「虚も語れば実となる」
すばらしい。
これぞフィクション。あんた見てたんかとおもわせるような生々しい人間像が浮かび上がる。
しかも、それってまったくのでっち上げ。
なんという文の力。
とても素晴らしい。
様々な文献が引用される。
詳細に読み込まれて、検証されかのような。
過去の研究者も諸説述べてるような。
そんな文献が本当にあったかのようだ。
しかもビターなユーモアがたっぷり。
ほんまにええですなあ。
・清心館小伝
幕末の頃、江戸では剣術道場が盛んであった。
そんな中に、自然天真流清心館道場。えらく活況であった。
その主たる教えは、「戦わずして勝つ 兵は詭道なり(敵をあざむく)」。
戦いが起きれば、一旦逃げろ。そのために足を鍛えろ。立派な足袋を。
手段をえらばず敵を欺け。
土下座、平身低頭、その後の秘策とは?
・印地打ち
いまに残る石合戦の風習。印地衆。
石を武器に戦う男たち。真田の強さの秘密。
石から鉄砲へ。豊臣秀吉の褒美とは。
弾け飛んだ天目茶碗。
・寶井俊慶
漱石の夢十夜。運慶は木に仏が埋まっているのを彫り出すのだ。
それができなければ、いくら彫っても真に仏とは言えない。
修行を積んだら、木の中に仏が見える?
ならばなんで彫る必要がある?
天狗の鼻の修理人とは?
・江戸の錬金術師
薗倉瑞軒、またの名を春雲亭銀牛。
朱子学、蘭学、からくり製作。
雷神を封じ込めるとて、鎧兜を着て、兜から伸びた竹竿に雷が落ちるのを待つ。
金貸し山井検校と組んで借金取り立て。いかがわしい興行を打つ。
猫を仕込んで歩かせる
万国怪異妖爛邪鬼城。生腑分け。深川の猫屋敷。
・桂跳ね
幕末の頃、将棋好きが高じて郵便将棋。
相手は天誅組で?
最後の一手は?
とても面白い。
わしの勝手なおすすめ度。
星五つ。
「汽水域」。
岩井圭也 著。
「通り魔事件発生。7人が死傷。犯人は死刑になりたい?」
安田賢太郎はフリーの事件記者。
元いた出版社の依頼記事をメインに仕事をしてる。
ギリギリの暮らしだ。
現場に駆けつけ、記事を送る。
なんとかこれを膨らませて仕事をつながなければ・・・
事件を深掘りしなければ・・・
関係者の取材が必要・・・
しかし、犯人には身寄りがない・・・
友達がない・・・
恋人がいない・・・
取り付く島がない。
SNSをさぐる・・・ てがかりがない。
なんとかしなくては・・・
それでも少しずつ・・・ 元恋人?・・・・元同級生?・・・
元の会社?・・・
記事は大ヒット・・・・、しかしその後で・・・・
犯人に人物像が少しだけ見えてきた。
しかし、なぜ無差別殺人? なぜかが見えない。
このままでは、仕事がなくなる。しかし、この事件を追うしかない。なぜ?
彼にだけわかるある事が・・・?
被害者側から突きつけられたものは?
犯人の側? 被害者の側? 報道は国民に真相を知らしめること?
どんな手段を使ってでも?
面白い。
果たして、彼は何をつきとめたのか? 何を理解したのか?
そして犯人は?
面白い。
でも、どこか心がザワつく。違和感がある。
わしの勝手なおすすめ度。
星三つ。
ブログランキングに参加していますよかったらポチンとお願いいたします。