塩田武士、「騙し絵の牙」
この本、とてもおもしろい。この人の「罪の声」もとてもおもしろくて、よう考えて
あるなあって思ったけど、こちらも又別の楽しさがある。
表紙に俳優の大泉洋がでっかく載ってて、パラパラめくっても一杯写真がでてくる。
どんな趣向なんやろ、又、しょうもないウケ狙いちゃうやろか? と心配しつつ
読んだけど、これがまたその時その時の表情仕草にドンと惹き込まれる仕掛けに
なっている。文が上手いんか? 俳優が素晴らしいのか?
速水は某出版社のやりての編集長だ。雑誌「トリニティ」を率いて活躍している。
しかし、出版界はデジタル化、ネット社会、若者の活字離れの影響を受けて
苦境に立ちつつある。あちらこちらで整理、縮小、統廃合の嵐が吹いている。
まるで一時の(今もか?)家電業界みたい。
速水の率いる雑誌も廃刊の崖っぷちにいるのではないか?
危機を感じた速水は様々手を打ち始める。
作家相手、プロダクション相手、出来ることはなんでもやるのだ。
しかし、弱みをネタに上司から理不尽な要求が。
速水とチームはピンチなのか?
危機を切り抜けるためにはどうしたらいいのか?
なんでもやるけど、編集者魂として曲げられないこともある。
有望な新人作家を育てたい夢もある。
権謀術数、魑魅魍魎の出版会の闇のなかで速水の苦闘が続く。
それも、カッコいい。
しかし、事態は意外な展開に。
不思議な読者からの手紙に心がゆらぐ速水。
予想だにしなかった事件が次々に?
いったいどうなるのだ?
とても面白い。
テジュ・コール、「オープン・シティ」
最初は、スケッチオブニューヨークみたいなものかな?
ニューヨークという大都市のなかでうごめく様々な人間模様、あるいは、都市と街角の
風景、そういうものを精神科医の冷徹な目で眺めた珠玉のエッセイみたいなやつ
かもしれんと思いつつ読み始めた。
そうでもあるし、そうでもない。
「私」はナイジェリア出身の精神科医だ。毎日セントラル・パークの側を通りながら
仕事に向かっている。
日々の暮らしは淡々と過ぎてるようでそうでもない。セントラル・パークにもマンハッタン
にも様々な風景があって暮らしがある。それは誰の目で見たのか、誰の心で切り取ったのか
によって全く違った世界になってしまう。
彼はナイジェリアからの移民だ。どうしてアメリカに来たのか来れたのか?その影が
徐々に明らかになる。
彼は白人ではない、アメリカでニューヨークで黒人であるということはどういうことなのか?
移民であるとうのはどういうことなのか?
「よう、兄弟」が意味するものは?
ビターな暮らしが立ち上がる。
そして、ブリュッセルで。
通りすがりで寝た女性から引き起こされたものは?
ナイジェリアの内戦で起きたことは?
かれが引きずる影とは?
ヨーロッパでの移民とは?
ヨーロッパでの黒人とは?
淡々と語るなかに、酸味と苦味が混ざる。
マーティン・ムンカッチの写真?
アンリ・カルティエ・ブレッソンの写真?
深そうで深くはないけど、ゆるやかそうでそうでもないけど、
知的で興味深いと思えることも多い。
良い作品だと思う。
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ありがとうございました。